
雫「その人って今いる?」
美玖ちゃんが、講義室をぐるりと見渡す。
美玖「んー、まだ来てないみたい」
雫「もう、席なさそうだけど…」
美玖「あ!!いたいた!!あれあれ」
美玖ちゃんが、そっと指をさす。髪を肩まで伸ばした男子が、ニコニコと笑いながら講義室へ入って来る。背も高く、顔も整っている。確かに他の男子とは雰囲気が違う。
雫「確かにカッコいい系だね」
美玖「こっち空いてるよーー」
美玖ちゃんが、手を振って声をかける。隣りの席を2つ空けていたのはそういう理由らしい。カッコいい男子は、もう一人の男子を連れて美玖ちゃんの隣りの席に座った。
イケメン「ありがとう。いやー、ギリギリだと席がなくて困っちゃうね。助かったよ」
美玖「いいのいいの。たまたま空いてたから」
村上「俺は、村上。こっちは秋野」
秋野「よろしく」
美玖「私は、長谷川美玖」
雫「…ま、真中雫です…」
村上「へー、美玖ちゃんと雫ちゃんか。よろしくね」
秋野「お前、いきなり名前呼び捨てとか失礼だろ」
村上「細かいなぁ。これから仲良くなるんだからいいじゃん」
秋野「しょうがない奴…」
村上「あ、あれ義也じゃない?」
秋野「誰だっけ?」
村上「野球部の」
秋野「あー」
村上「ちょっと声かけてこようぜ。おーい義也」
秋野「せっかく席取ってくれたのにごめんね。じゃまた」
嵐のようにやってきた2人の男子はあっという間にやって来て、
あっという間に去って行った。
それは、本当に一瞬の出来事だった。
美玖「はぁー超カッコいい、村上君。全然喋れなかったけど…」
雫「確かにカッコいいね…」
美玖「言っとくけど村上君は私が狙ってるんだからね」
雫「わ、わかってるよぉ」
美玖「まぁ、雫はどっちかって言えば秋野君派みたいだし」
雫「う…」
美玖「拒否反応しなきゃ肯定することになっちゃうんだけど?」
雫「えへへ」
美玖「その苦笑いは…決まりだね。でも、秋野君もなかなかカッコいいよね。あの2人仲良いみたいで、いっつも一緒にいるの。イケメンが並んでるのって目の保養になるよねぇ」
美玖ちゃんが、遠い目をしながらニヤニヤと笑みを浮かべる。視線を前に向けると、村上君と楽し気にしゃべる秋野君が映る。自分が、あの隣りに座れたら…そんな期待も自信もない少しの希望を持ちながら、私は転部の考えをやめた。
【続】