
5分ほど経った頃、ノックする音が聞こえ、私たちは姿勢を正して坐り直す。
村上「失礼しまーす。あれ?美玖ちゃんと雫ちゃん」
入ってきたのは村上君と秋野君だった。
私は、思わず俯いてしまう。偶然かもしれないけど凄く嬉しい。
2人は、私たちの前の席に座った。
村上君が、こちらを振り返り、優しい笑顔で話しかける。
村上「2人とも五十嵐ゼミにしたの?」
美玖「うん。雫が、五十嵐ゼミが良いって言うから」
村上「へー、そうなんだ。何するかよくわかんないけどよろしくね」
雫「何するかわからないの??」
村上「うん。俺は、秋野についてきただけだから」
何となく村上君と美玖ちゃんは相性が良いんじゃないかとこの時思った。
村上君の言葉にため息をついた秋野君が、振り返る。
私は、距離が近くてドキドキしてしまう。
秋野「昔から何でも真似してくるんだよ、コイツ」
村上「いいじゃんかよ。考えるのはお前が担当なんだから」
美玖「でも、幼馴染なのに苗字で呼び合うって、ちょっと不思議だね」
村上「あー、それは秋野が名前で呼ばれるのを嫌がるからだよ」
美玖「そうなの?」
秋野「あんまり好きじゃないんだ。オッサンっぽい名前で」
村上「秋野泰男」
美玖「あー」
雫「で、でも貫禄があると言うか、男らしいと言うか…」
秋野「ありがと…」
秋野君が、どんよりした表情で私に複雑な笑みを浮かべる。
結構気にしているらしい。
村上君は、そんな秋野君の姿を楽しそうに見つめている。
気を使わないやり取りは、
2人の関係が親密であることを物語っている気がした。
ガチャッ
男性「おお今年は4人か、大量大量」
背の高い男の人が入って来る。この人が五十嵐教授だ。
オリエンテーションで、
教授たちが自分のゼミについて長く語っている中、五十嵐教授だけは、
五十嵐「五十嵐だ。ゼミではディベートをやる、以上」
と僅か10秒で終わってしまった。他の教授たちが苦虫を噛み潰したような表情や冷たい視線を送っていたが、本人はまったく気にする素振りも見せず席に戻って行った。
村上「4人で多いってどんだけ人来ないゼミなの?」
五十嵐「お前らの1個上の先輩は1人だけだな」
村上「少なっ!!おい、秋野ここヤバいんじゃねーの?」
五十嵐「村上ぃ、そういうのは陰でこそこそ言うもんだぞ」
村上「え?俺の名前知ってるの?」
五十嵐「今年入学してきた生徒は全部頭に入ってる」
美玖「ウソー!!だって500人以上いるでしょ?」
五十嵐「長谷川、532人だ」
自慢げに言う事もなく、表情も変えずに飄々としている五十嵐教授に私たちは静まり返る。五十嵐教授は、得体のしれない、人間じゃないような、他の人とは違った雰囲気をしている。
五十嵐教授は、席に座り、足を組む。
【続】