
五十嵐「うーん」
雫「あのー?」
五十嵐「ん?」
雫「これって何か意味あるんですか?」
五十嵐「あるね。大体のことが分かる。性格、長所短所、悩み、好き嫌いとか」
雫「占いみたいなものですか?」
五十嵐「そんなもんだな」
なんだかはぐらかされているような気もした。
何を言っても無駄な気がして私は質問するのを止める。
五十嵐「今年は、濃いメンバーが揃ったなぁ」
雫「濃い?」
五十嵐「問題児ばっかりってことだ」
特に困った様子はなく、どちらかと言えば少し楽しそうな表情を浮かべている。五十嵐教授は、口元を撫でまわす。落ち着き余裕のある態度は貫禄があって大人びているが、どことなく若いような感じもする。
そう言えば教授って何歳なんだろう…。
五十嵐「村上呼んできて」
雫「終わったんですか?」
五十嵐「うん、終わりだ。お疲れ様」
立ち上がり、タバコを咥えるちょっと前に五十嵐教授は、そう言ってにっこりと笑みを浮かべる。まるで少年のような可愛らしい笑顔にドキッとした。
しかし、研究所を出る直前にふと見た五十嵐教授の目は感情のない生物のように淀んでいた。怖くなった私は慌てて研究室を後にした。
その後は村上君が呼ばれ、15分程同じような面談をしてゼミ室に再び戻った。
みんないつも通りだったけど、どこか疲れたような表情を浮かべていた。
そこに五十嵐教授が戻って来る。
五十嵐「お疲れ、ご協力感謝する」
村上「結局なんだったの?」
五十嵐「だから言っただろ?面談だよ」
美玖「変な催眠とか洗脳とかかけてないよねぇ?」
五十嵐「お前等を洗脳して何の得になんだよ」
五十嵐教授は呆れた様子で深く溜息をついた。
その反応にみんながクスクスと笑いだす。
五十嵐「ゼミ長は秋野、書記は真中」
秋野「俺?」
村上「いやーお前しかいないだろ」
美玖「まともそうなの秋野君くらいだもんね」
五十嵐「はいはい静かに。お前等も大学生なんだからいちいちはしゃぐんじゃねーよ」
美玖ちゃんが私の耳元で『良かったね』と静かに囁く。
嬉しかった私は、嫌がる素振りもせずに単純に喜んだ。
秋野君にそっと視線を向けると、目がちょうど合ってしまった。
慌てて目をつぶり、俯く。
五十嵐「秋野も真中もいいか?」
秋野「別にいいよ」
雫「わ、私も大丈夫です」
五十嵐「じゃあゼミ室の鍵は真中に預けておくな」
私は、少し汚れた野球ボールの小さなキーホルダーが付いている鍵を受け取った。
【続】