
美玖「じゃあ面接行ってくるね」
雫「頑張ってね」
秋野「また明日」
村上「バイバーイ」
秋野「じゃあ帰ろうか」
村上「雫ちゃんも一緒に帰ろ」
雫「ごめんね。私、学生課に用事があるの」
村上「そっかぁ」
秋野「また明日ね。真中さん」
雫「うん、バイバイ」
私は、ゼミ室の鍵を閉めて学生課へ向かう。
秋野君の『また明日ね』という言葉がなんだか恥ずかしくって嬉しかった。
学生課で提出書類の不備を訂正し、帰ろうとすると…。
五十嵐「おおおおおおお、待て待て!!!!!!」
五十嵐教授が、正面からものすごい勢いで走ってきて、私の目の前で止まる。
雫「な、なんですかぁ」
五十嵐「はあはあ…ちょ…ちょっと…待て」
雫「ま…待ってますよ…」
五十嵐教授は、凄く慌てた様子で息を切らしている。
すれ違う生徒たちがジロジロと見つめるが、当の本人は全く気にしていない。
五十嵐「いやぁ、こんなに走ったのはひさしぶりだわ。あはははは」
雫「どうしたんですか?」
五十嵐「実は来週のゼミで使う参考書を図書室で探すのを忘れていてな。申し訳ないんだけど探しておいてくれないか?」
雫「別にいいですけど…」
五十嵐「助かる。俺の研究室に適当に置いててくれればいいから」
雫「あ、鍵はどこにあるんですか?」
五十嵐「あーこれこれ。あと学生課に返しておいてくれ」
雫「は、はぁ」
五十嵐「じゃ、よろしくー」
五十嵐教授は、あっという間にいなくなってしまった。
私は、研究室の鍵と必要な参考書のメモを片手にしばらく立ち尽くした。
メモに書かれている本は、心理学や精神分析、
人体の構造と機能等の難解なもの。
それとは別に北海道や九州の旅行ガイド…。
難しい本は全部フェイクで、本命は旅行ガイド?
学会で論文の発表なんていいながら温泉旅行…
雫「………」
五十嵐教授が、ニコニコしながら露天風呂に浸かる情景が浮かぶ。
雫「早く終わらせて帰ろう…」
【続】