
図書室は夕日が差し込み、綺麗なオレンジ色に染まっていた。
勉強熱心な生徒たちが静かに自習をしている。
ノートに書き込む音、ページをめくる音、靴音が響くが、人の声は聞こえない。
席はほとんど埋まっている。
メモに書かれた本のタイトルを上から順に確認し、
それらしいジャンルの場所へ行って探す。
2~3冊なら図書室の係りの人に聞けばいいけど、パッと見ただけでも10冊以上はある。地道に探すしかなさそう。
せっかく見つけた検索の機械は『故障中』の紙が貼ってあり、
図書係の人も見当たらない。
とりあえず著者やそれらしいジャンルのコーナーを回ることにした。
幸い似たようなジャンルが多かったので、大半の本が同じ棚で見つかった。
しかし、どうしても最後の1冊だけが見つからない。
見つけた本を机に置き、私は席に座った。
雫「………」
図書室に来て1時間が経とうとしている。
途方に暮れた私は目をつぶり、静かにため息をつく。
雫「はぁ~」
秋野君「どうしたの?」
雫「本が、見つからないのー」
秋野君「一緒に探そうか?」
雫「そんな…悪いですよ……へ?」
知らない人に声をかけられたと思い、振り向くと隣りに秋野君が座っていた。
あまりにも突然で、その近すぎる距離に私は思考停止してしまう。
同時に体も固まってしまう。
言いかけた言葉の先を待つ秋野君が私の顔を覗き込む。
子供のような純粋無垢な瞳に私の母性が揺れ動いてしまう…。
うう、抱きしめてあげたくなる可愛さ…
秋野君「真中さん?」
雫「へ?」
秋野君「よ、よだれが…」
秋野君が、気まずそうな表情を浮かべる。私は、慌てて顔を覆う。
雫「ごご、ごめんなさい。えへへ…」
秋野君「何探していたの?講義で必要な本でもあった?」
秋野君は、よだれの件には触れず、話を戻してくれた。
私は、ハンカチで口元を抑える。
雫「ううん。五十嵐教授に頼まれた本を探してるんだけど1冊だけ見つからなくて」
秋野君が、積み重なっている本の山を見つめる。
若干いら立っているようにも見える。
秋野君「……俺たちのゼミに全然関係ないような気がするんだけど…」
雫「やっぱり?」
秋野君「真中さんをからかって遊んでるのかも…」
雫「ええええ!!酷い!!」
秋野君「あ、いや、例えばの話…」
雫「あ、そっか。そ…そうだよねー」
気が動転して冗談がわからなくなってた。
秋野君「ちょっと図書係に聞いてくるよ」
雫「あ、私が頼まれたからいいよ」
秋野君「いいからいいから」
【続】