
秋野君は、机に置いてあるメモを手に取り、受付に歩いて行く。
優しくて行動が早い秋野君に興味がわいてくる。
いったいどんな人なのかもっと知りたい…。
受付の人と話を終えた秋野君が戻ってくる。結果は悪かったみたい。
ばつが悪そうな表情の秋野君がぽりぽりと頭を掻きながら近づき、私の隣の席に座る。
秋野君「五十嵐教授が、借りてからずっと返却してないらしい」
雫「ええー」
秋野君「半年も借りたまんまだってさ」
雫「は、半年…」
秋野君「五十嵐教授って本当にいい加減だよね」
雫「うん、あ、ありがとう」
秋野君「いや、俺なにもしてないし」
雫「そういえば秋野君はどうして図書室に?」
秋野君「村上を待ってるんだよ。16時待ち合わせで」
時計を見ると16時15分になっている。
雫「もう15分も過ぎてるよ。ごめんね」
秋野君「いいよ。それよりこれ研究室に持って行くでしょ?手伝うよ」
雫「平気。村上君が待ってるんだから行ってあげて」
秋野君「本当に?」
雫「本当」
秋野君「うん、じゃあ明日」
雫「明日ね」
秋野君が、図書室を出ていく。私は、本を抱えて受付へ向かう。
雫「こんなに借りて大丈夫ですか?」
受付女性「ええ、教授の特権があるから大丈夫よ。ただ、五十嵐教授に『早く延滞している本を返さないと酷い目に遭わせる』って伝えておいて」
受付の女性は、終始笑顔だったけど、
その言葉には積もりに積もった怒りと憎しみが詰まっているように感じた。
雫「つ…伝えておきます…」
私は、専用の袋に本を入れて図書室を後にした。
雫「うぅ……」
自分の荷物にプラス20冊の本はさすがに重たい。
素直に秋野君に手伝ってもらえばよかった…。
『手伝おうか?』『大丈夫?』
と何人かの男子に声をかけられたけど断った。
ずっと私の胸に視線が向いてるし、どこか下心を感じる。
なんとか休憩しながら五十嵐教授の研究室に着く。
ドアの隙間が空いていて中から紅茶の香りがする。
ゆっくりとドアを開くと先ほどとは比べ物にならないほど整理されていた。
床に散らばった書籍は綺麗に陳列され、ビールの缶は袋にまとめられている。
研究室を間違えたかと思ったが、扉には確かに『五十嵐健太郎研究室』と書かれている。
???「誰?」
雫「え?」
研究室から五十嵐教授ではない声が聞こえる。
私は、再び研究室の扉を開け、中に入った。
そこには黒のゴシック風ドレスを着こなし、
頭にはフリルの付いたカチューシャを付けた美少女がこちらを見つめている。
透き通るような真っ白な肌、ピンクの唇、目元は黒く塗りつぶされ、
若干大き目の付けまつげが、大きな目をより一層大きく見せる。
身長は小柄で、黒髪のストレートに前髪をパッツンにしている。
この特徴は間違いなく…。
【続】