
夢莉「ちなみに私は元ゼミ長。100人ゼミ生がいても、お前がゼミ長だって言われたわ。最低よね、アイツ」
私は苦笑いを浮かべる。
でも、五十嵐教授がそんな話をするってことは意外と夢莉先輩を気に入ってるんじゃ…。
夢莉「その本…」
夢莉先輩が、テーブルに置いた本を指さす。
雫「あ、これは…」
夢莉「アイツに頼まれたのね」
雫「はい、まぁ」
夢莉先輩は、やれやれといった感じで溜息をつく。
夢莉「この量を1週間で読むのよ」
雫「ええ!!」
山積みになった本を見つめる。
物凄い文章量だと言うことは開かなくてもわかる。
夢莉「試しに本当に読んでいるのか内容を質問してみたけど全部頭に入っていたわ」
雫「……」
夢莉「キモいわよね」
気持ち悪い以前に凄すぎて絶句してしまった。
私は、必死に話題を繋げようと頭を回転させる。
雫「ええっと…夢莉先輩はなぜ研究室に?」
夢莉「ちょっと様子を見にね。私が、片付けないとすぐに汚すんだもん」
雫「あ、なるほど…」
夢莉先輩が、あまり深く聞くな、というオーラを出している。
まさか夢莉先輩…。
雫「……」
夢莉「……別に、深い意味はないわ」
雫「は、はい」
夢莉「ほら、私綺麗好きだし、汚れてる部屋とか見てられないというか」
雫「はい…」
何も聞いていないのに話し始める…。
なんだか嘘がつけない感じが私に似ているかも…。
ふと時計を見ると、針は17時5分を指している。
雫「夢莉先輩、ごちそうさまでした。私そろそろ…」
夢莉「引きとめちゃって悪かったわね」
雫「いいえ、とっても楽しかったです」
夢莉「私も」
雫「あ、研究室の鍵は…」
夢莉「合鍵を作ってあるから大丈夫よ」
夢莉先輩は、得意げな表情を浮かべるが、
それって…あんまりよくないような…
そして、やっぱり夢莉先輩は五十嵐教授のことが…
雫「お皿は、キッチンに置いておきますね」
夢莉「そのままにしておいて。片づけはしておくから行っていいわよ」
雫「すみません…」
夢莉「ごきげんよう」
雫「ご、ごきげんよう」
夢莉先輩がにっこりと微笑む。
現実で『ごきげんよう』と返事をしたのは生まれて初めてだ。
私は、自分の荷物を持って研究室を後にした。
【続】