
美玖ちゃんは、とてもお話好きだった。
私は、どちらかと言えば自分の話をするよりも聞き役の方が好きなので、
すごく相性がいいと思った。
どの科目を選ぶとか、サークルはどうするかとか。
まだ、大学の講義を1度も受けていないのに美玖ちゃんの興味は尽きないらしい。
「サークルも科目も全部同じのにしようね」と何度も念を押された。
アルバイトをしたいからサークルには入らないかも…
そう言うと「私も入らない!!」と言い出す。
まるで、秋野君と村上君の女版みたいと美玖ちゃんが言うので、
私は、吹き出してしまった。
美玖「1日でこんなに仲良くなれるなんて一生の親友に出会えたのかもしれなーい」
雫「大げさじゃない?」
美玖「そんな事ないよ。きっと一番の親友」
雫「まだ、大学生なんだから~この先もいろんな人と出会えるよ」
美玖「えー雫が1番だよぉ~」
雫「またぁ~」
美玖「本当だって……」
さっきまで大声で話していた美玖ちゃんが、息を潜める。
美玖「………」
雫「ん?」
美玖「………」
雫「美玖ちゃん?」
美玖「猫だー」
雫「あ!!ちょっとぉ!!」
美玖ちゃんは、大通りから細い道へ飛び込んだ。
美玖ちゃん自身が動物のように俊敏で、犬や猫よりも扱いが大変…
っていくらなんでも本人に失礼か…。
雫「待ってよぉ」
美玖ちゃんを追って細い道へ入る。
道を抜けると住宅街で、人通りが一気に少なくなった。
大通りとは打って変わって街灯は少なく、ひっそりとしている。
街灯のまだついていない電柱の下に美玖ちゃんのポニーテールとお菓子でパンパンになったリュックサックが見える。
遠くから見ると、まるで大きな小学生みたい。
息を切らせるほどではなかったが、私は一呼吸おいて話しかける。
雫「ふぅ…猫はいたー?」
美玖「いない。逃げちゃったのかも」
雫「飛び出していった割には興味なさげだねー」
美玖ちゃんが、くるりと振り返る。
雫「美玖ちゃ…」
美玖「ウサギだったらなぁ…」
私が、名前を呼ぶよりも早く美玖ちゃんが変なことを言い出した。
でも、今までとは何か違う。
「また変なことを言い出した」そう言おうとして飲み込んだ。
雫「ウサギ?」
美玖「そう」
雫「ウサギを追いかけるって不思議の国のアリスみたいだね」
美玖「うん」
雫「ウサギ好きなの?」
美玖「前は好きだったよ。でも、ウサギの次はワンちゃん。今は雫かなぁ」
雫「ペットショップに売られてない動物がいますよー」
美玖「ふふ」
雫「私は、いくらなの?」
美玖「んー5,000円?」
雫「え~、そんなに安いのぉ?」
美玖「じゃあ100万円はどうだ!!」
雫「買った!!!」
美玖「ふふ」
雫「うふふ」
その話はもうやめた。
お互い触れなかったし、そのまま話していても面白くなかった。
私たちは、クスクスと笑いながら手を繋ぎ、始めて歩く道をゆっくりと進んだ。
【続】