
美玖「お邪魔しまーす」
雫「いらっしゃーい」
美玖「うわぁ、ものすごい数の段ボール」
リビングまでの通路が丁度半分段ボールで埋め尽くされていた。
すぐに使いたいものだけを出して、それ以外は封も開けていない。
まさか、初日から友達を家に上げるなんて思ってもいなかった…。
雫「ごめんねぇ。全然手を付けてなくて、学校が落ち着いたら少しずつやろうと思ってたんだけど…」
ママと喋っているような感覚になり、ついつい言い訳っぽくなってしまう。
美玖ちゃんは、両手を腰に当て、段ボールを見渡す。
美玖「んー、雫のペースじゃ何年かかるかわからないねぇ」
雫「年!!そんなに??」
美玖「1日1箱かかってそう…」
雫「うん…」
そんなことない…そう断言できない自分が情けない…。
家のことは何もかもママに任せていたから全然ダメだ。しっかりしなきゃ。
美玖「私が、手伝うから今日中に終わらせちゃおう」
雫「今日中に終わるかなぁ…」
今日中にと考えただけで、段ボールの量が多く感じてしまう。
美玖「終わるかなぁじゃなくて終わらせるの。さぁ~やるぞ~」
雫「うん!!」
美玖ちゃんは腕まくりをすると、部屋に上がり、段ボールをチェックする。
自由奔放な美玖ちゃんだけど、積極的で前向きな姿は、とても頼りがいがある。
運動神経が良くって、すごく明るくて、優しい部活の先輩…
後輩の女子は、きっと尊敬して憧れていたに違いない。
美玖「それにしても物凄い量だねぇ…ん?」
美玖ちゃんが、手前にあった段ボールの前でしゃがみ込み、
再び立ち上がって、段ボールの山を見つめる。
美玖「………」
雫「どうかした?」
美玖「ここにあるの全部ぬいぐるみって書いてある…」
雫「あー、うん」
美玖「ちょっと多くない?」
雫「そうかな?」
美玖ちゃんが『ぬいぐるみ』と書かれた段ボールを一つ開封し、直ぐに封を閉じた。
再び段ボールの山を見渡してから深く溜息をつく。
美玖「ねぇ、雫。まさか1つの段ボールに1つしか物入れてない?」
雫「うん」
美玖「あのさー雫。普通は、1つの段ボールにまとめて入れるもんなんだよ」
雫「う~ん、確かに言われてみれば…」
言われてみれば1つの段ボールに1つしか入れてはいけないなんてルールはない。
詰め込めばもっと荷物が少なくて済んだかもしれない。
美玖「荷造りってしたことないの?」
雫「パパもママもしたことないと思う」
美玖「へー、雫って親のことをパパとママって呼んでるんだ」
雫「あ、いや、あの…お母さん」
美玖「別にいいよ。なんか本当にお嬢様って感じだねぇ」
雫「小さい頃から呼んでるから癖になっちゃったみたい」
美玖「まぁいいんじゃない?箱入りお嬢様って感じで」
雫「また、馬鹿にしてー」
美玖「あはは、ごめ~ん。とりあえず荷物を全部開けようか…
いや、その前に大きいヤツから片付けるか」
美玖ちゃんは、組み立てるのが大変そうな大きい段ボールを1か所に集める。
この手際の良さは、引っ越し初心者じゃない。
それともアルバイトでもしてたのかな?
美玖「雫―!!!ぼさっとしないのー!!!」
雫「はーい」
美玖「私は食器棚を組み立てるから、雫は小さな棚から組み立てて。
それくらいならできるでしょ?」
雫「うん!……ってまた馬鹿にされてるような気がする…」
私は、引っ越しリーダーの指示に従って、棚の入った段ボールを開封する。
【続】