
美玖「じゃあ紅茶でー。さっきのケーキとお菓子食べよ」
雫「うん、ソファーに座ってくつろいでて」
美玖ちゃんが、段ボールを畳み、散らばった袋やテープのゴミを片付ける。
雫「そのままでもいいよ。私が後で片づけるから」
美玖「大丈夫大丈夫。ちゃんと片付けないと落ち着かなくて…」
段ボールが、なくなった家は、一気に広がりを見せる。
実家から持ってきた私の荷物が並び、ようやく私の家になったように感じる。
…と言っても私は段ボールから物を出して、ちょっと並べただけ。
組み立てから大きな移動や配置まで、全部美玖ちゃんにやってもらった。
美玖「このぬいぐるみ可愛いね」
ぎゅうぎゅうに並べられたぬいぐるみの一つを美玖ちゃんが取り上げ、
ソファーでしげしげと見つめる。
雫「あー、それは気に入ってる子なの。買ってもらったのは…低学年くらいかなぁ…」
美玖「えっ!!すっごく綺麗じゃない?……あ」
美玖ちゃんが、持ち上げた瞬間、足の部分がポロリと落っこちてしまった。
美玖「ご、ごめん!!」
青ざめた美玖ちゃんが慌ててぬいぐるみの足を拾い上げる。
あまりにも驚き戸惑う美玖ちゃんに私の方が動揺してしまう。
美玖「わ、私…あ…」
美玖ちゃんは、手が震えて今にも泣きだしそうだ。
雫「気にしなくていいよ。古い人形だし、縫えば何とかなるよ」
美玖「本当にごめんね…」
私は図工だけじゃなくて裁縫が大の苦手で、ぬいぐるみを修繕するときはママに頼んでいる。
わざわざ実家に送ったりすれば、また美玖ちゃんに笑われるかもしれない。
それよりも動揺している美玖ちゃんを落ち着かせなきゃ。
雫「大丈夫だってば。古いぬいぐるみだからよく取れるんだ。その都度直してるの」
美玖「私、お裁縫できるから…糸と針…ある?」
おどおどした様子で美玖ちゃんが聞いてくる。
私は、わざとらしいくらい明るくふるまう。
雫「うん!!私、お裁縫苦手だから助かっちゃうよぉ。
美玖ちゃんに何でもお願いしちゃって…ごめんね」
私は、新品同様の裁縫セットを取り出して、美玖ちゃんに手渡す。
雫「美玖ちゃんって縫物とかしてたの?」
美玖「うん。一時期すごくハマってたことがあって」
雫「へぇ~色々作れるの?」
美玖「最初は簡単なキーホルダー、ぬいぐるみ、マフラー、手袋…」
雫「すごーい。美玖ちゃんって何でもできるんだね」
美玖「そんなことないよ~」
少し元気になった美玖ちゃんは、ニコッと笑う。
【続】