
ズルズルと女性が燃えるゴミの山から引き上げられる。
引き上げられても女性は全然反応を見せない。
女性「ん……うぅ」
雫「大丈夫ですか?」
女性は、私を呆然と見つめる。髪型もメイクもメチャクチャだけど、小顔で凄く可愛い。寝ぼけたような表情を浮かべている女性からは、アルコールの匂いが充満している。虚ろな瞳で周囲を見回し、自分の置かれている状況をゆっくりと整理しているようだった。
お姉さん「ええっと…貴女誰だっけ?」
少女のような無垢な瞳で顔を見つめられる。お姉さんが頭をかくと、頭に乗っかった生ゴミが、ボロボロと目の前に落ちる。アルコールの匂いで気が付かなかったけど、生ゴミの悪臭が酷い。
雫「とりあえず移動しましょう」
私は、自己紹介の前にこの場所を離れることにした。長時間ゴミ捨て場にしゃがみ込んでいるのは、あまりよくない。ジロジロと見ている人もいるし、これ以上騒ぎが広がるのも問題だ。私たちは、周囲の視線を避けるように移動した。
※
お姉さんの手を引き、近くのファミレスに入る。店員の若い男の子は、ボロボロのお姉さんの姿に表情を曇らせた。慌てて表情を笑顔に戻したけど、かなり動揺しているようだった。
他のお客さんや店員さんが、お姉さんの姿をジロジロと見つめる。お姉さんは、周囲の視線には全く反応せず、ごくごく普通のお客さんとして席に座った。酔いも冷めてきたようで、段々顔色も良くなってきた。お姉さんは、ヒビの入った折り畳みミラーを開き、目元からずれ落ちた付けまつ毛を付けなおす。
雫「………」
お姉さん「……よし、まだ使える」
雫「あの……」
控えめに声を出す。話を切り出すチャンスがなかったので、だらだらしてしまった。
お姉さん「ん?」
雫「大丈夫ですか?その…なんであんなことに…?」
お姉さん「あーいつものことだから大丈夫だよ」
ニッコリと笑みを浮かべた瞬間、先ほど付けなおした付けまつ毛がポロリとテーブルに落ちる。
お姉さん「ダメかぁ~」
お姉さんは、付けまつ毛を紙ナプキンでまるめて、テーブルの隅っこに置く。
【続】