
雫「いつもあんなことに…?」
話が脱線しそうなので、もう一度質問をしてみる。
お姉さん「うん、酔っぱらっちゃうとね」
腕を組み、目をギュッとつぶり、お姉さんは昨夜の記憶を呼び起こそうとする。
お姉さん「昨日も途中までは覚えてるんだけど、3軒目くらいから記憶がないんだぁ~」
雫「え…」
お姉さん「ん~。たまたま席が隣りになった知らないオジサンと盛り上がっちゃって、居酒屋で飲んでからカラオケ?ボーリングだっけかなぁ?
雫「……」
お姉さん「それは一昨日かなぁ?あれ~?」
雫「え~っと…」
想像以上のだらしなさに絶句してしまい、かける言葉が見つからない。
知らないオジサンと飲んで遊びまわるなんて、ちょっと考えられない。
割れたファンデーション、曲がったマスカラ、欠けた口紅を次々と取り出し、
物凄いスピードで美しい顔が出来上がっていく。
お姉さん「あ、奢るから何でも頼んでよ。助けてもらった仕返しにさ」
雫「し、仕返し?」
思いもしない単語に思わず身構える。
お姉さん「あー、恩返しだ。あははは」
お姉さんがケラケラと笑う。ボロボロの見た目とは対照的に顔だけが綺麗にメイクされている。
笑顔がとても可愛い。こんな可愛いお姉さんと飲んでいたら、勘違いするオジサンが沢山いそう。
雫「私、何もしてないですから大丈夫です」
お姉さん「若いのに控えめなんだねぇ~…まあ、ここは大人のお姉さんに…あれ?」
お姉さんが、カバンをガサガサと漁り、苦笑いを浮かべる。
お姉さん「あははは…財布も携帯もどっかに落としちゃったみたい…」
雫「ええ!!急いで探さなきゃ!!」
私は、さっきのゴミ捨て場に向かおうと直ぐに立ち上がるが、
お姉さんは慌てる様子もなく、手をひらひらと上下させ、立ち上がろうとしない。
お姉さん「えー、いいよぉ~めんどくさいし。お金もそんなに入ってないし」
雫「でも、情報漏洩とか窃盗とか…クレジットカードで買い物されたり」
お姉さん「大丈夫じゃなーい?それに私クレジットカードの審査通った事ないしぃ」
雫「そ、そうですか…」
どっちが財布と携帯を落としたのか分からなくなるくらい落ち着いている。
その姿を見ると、なんだか慌てていた私の方がおかしいみたい…。
私が静かに着席すると、お姉さんがキョロキョロと周囲を見渡してから身を乗り出し、小声でささやく。
お姉さん「ところで、ここのドリンクバーなんだけど…」
私は、思わずため息をつく。
雫「私が払いますよ」
お姉さん「ごめーん。後で必ず返すから」
お姉さんが、申し訳そうな顔で、両手を合わせて謝罪する。
【続】