後悔する新人 #36

雫「いえいえ…」

お姉さん「あ、そうだ。これ渡しておくね」

お姉さんが、ジャケットからピンクを基調にしたビジューが散りばめられた名刺ケースを取り出す。

お姉さん「私、翠。スナックで働いてるの」

ニッコリと笑った翠さんが、1番上の名刺をサッと取り、私にくれた。

紫色の名刺には、『スナックNANA 翠』と書かれており、3羽の蝶が羽ばたいている絵が名前の横に描かれている。

社会人らしからぬ名刺だったけど、それ以上にひび割れて痛々しそうなネイルの方が気になった。

雫「私は、真中雫です」

そういえば、お互い名乗り合っていなかった。

翠さん「雫ちゃんね。私はここら辺じゃ結構有名なんだよ」

翠さんが、腕を組み、自信満々と言った表情を浮かべている。

雫「そうなんですね…」

私は、反応に困りつつも笑顔を浮かべる。

毎回、こんな姿で歩いていれば有名にもなるかもしれない…。

翠さん「………」

雫「………」

翠さんが、急に押し黙り、私のことをジロジロと見つめ始めた。

雫「翠さん?どうかしました?」

翠さん「雫ちゃんは、学生さん?」

雫「はい。大学生です」

翠さん「ふぅ~ん…」

雫「えっと…なにか?」

翠さん「彼氏はいるの?」

雫「…いえ、その…まだ」

思わず秋野君の顔が浮かんでしまう。

なんの予定もないのにまだなんて言ってしまった。

翠さんが、再び身を乗り出してくる。

翠さん「雫ちゃんも一緒に働かない?」

雫「え…」

翠さん「あ、それとももうアルバイトしてた?」

雫「あ、いえ探しているところで…」

翠さん「ちょうどいいじゃん、やろやろ」

私が何か言うよりも先に翠さんが、決定したかのように大喜びでニコニコしている。

雫「で、でも私、その無理です…」

翠さん「え~、なんでなんで~」

翠さんが、ニコニコした顔から一転して、残念そうな表情を浮かべる。

雫「私、まだ男の人と付き合ったことないので、人前で裸になるなんて出来ません!!」

思わず声が大きくなってしまい、周囲の人達の視線が注がれる。

翠さんが周囲を気にしながら、私に小声で話しかける。

翠さん「いや、脱がないよ。スナックは…」

雫「親からもらった身体に入れ墨を入れたり、ドラッグとかダメだと思います。価値観や考え方は人それぞれだと思うんですけど、翠さんも自分の身体を大切にして下さい。クスリに頼らなくても、もっと楽しいことがあるはずです」

翠さん「……雫ちゃん、勝手に私を薬物中毒者にしないでくれないかなぁ…」

野蛮な言葉が、飛び交ってしまい、私は両手で口を押えた。

隣の席の年配のオジサンがこちらを睨みつけながら咳払いをした。

【続】

「後悔する新人」
「調教する隣人」の真中雫が主人公のサブストーリーです。
秋野に出会う前から大学生活を送る間の物語を描いています。

小説「調教する隣人」(1)
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★小説版のみの雫ED「調教する隣人」(5)
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ゲーム「調教する隣人」
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★「後悔する新人」まとめ版★
※内容は同じです※
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