
今度は、私が小声で翠さんに問いかける。
雫「翠さんってやってないんですか?」
翠さん「やってないよぉ」
雫「ご、ごめんなさい。人を見た目で判断するのって失礼ですよね」
翠さん「雫ちゃん、その発言自体がすご~く失礼だよ」
翠さんが、少し寂しげな表情を浮かべた。
雫「すみません……」
私は下唇を軽く嚙み、うつむいた。
???「あれぇ?翠さんじゃないですか」
明るいさわやかな声が、私の真横から聞こえる。
声のする方に視線を向けると、細身の背の高い男性が立っている。
男性「こんなところで会うなんて奇遇ですねぇ」
ネイビーのストライプスーツをビシッと着こなした男性は、清潔感が漂っていた。
真っ赤なネクタイを締め、シルバーの腕時計が光っている。
翠さん「竜ちゃん、久しぶりだね」
竜ちゃんと呼ばれたスパイラルパーマの男性が、にこやかな笑顔を私に向け、軽く会釈をする。
私もそれに倣って会釈を返す。
竜ちゃん「初めまして、清澄竜太郎です。よろしく」
爽やかすぎる笑顔は、営業で培ったものらしく、1ミリの隙もない。
口元に笑みを残したまま、視線を私から翠さんに戻す。
翠さん「ちょうどよかったあ。実は財布と携帯をなくしちゃってさぁ」
清澄さん「はっはっは。相変わらずエキサイティングな日々を謳歌していますねぇ、翠さん」
清澄さんは、驚きも心配もせず、とても面白そうに笑っている。
反応から見て、翠さんの酷い日常にかなり精通しているようだった。
翠さん「オウカがなんだかわからないけど、とにかく困ってるの。あ、お金貸してくれない?」
清澄さん「はい。いくらですか?」
なぜ必要のかも聞かず、嫌がる素振りも見せず、清澄さんはお尻のポケットからサッと長財布を取り出す。
翠さん「ここのドリンクバー代。おごろうとしたら財布なかったんだー」
清澄さん「なるほど。では、ここは私が……」
雫「あ、大丈夫ですよ。私自分で払いますから」
私は、慌ててカバンから自分の財布を取り出す。
清澄さん「まあまあ、お気になさらず」
清澄さんは、ピン札の1万円をテーブルに置いた。
雫「こんなにしませんよ」
清澄「パフェでも召し上がってください。ここのイチゴパフェは絶品なんです。あ、パンケーキもオススメですよ」
困った私は翠さんに視線を向ける。
【続】