
五十嵐「よし。全員いるな」
雫「え……」
村上「美玖ちゃんいないじゃん」
私が聞くよりも早く、村上君がみんなの疑問を切り出した。
レポートを返そうとした五十嵐教授の手が止まり、不思議そうな顔を浮かべて、首をかしげる。
五十嵐「あれ?聞いてないのか?長谷川は大学辞めたぞ」
村上「辞めたって?」
雫「……」
3人の無言の視線が私に向いた。私も初耳で、信じられない気持ちだった。
五十嵐「なんだみんな知らないのか?まあ、長谷川にも事情があるんだろ」
ゼミの間、私は集中できずにボーっとしていた。一応ノートは取っていたけど、状況がのみこめなくて、頭の整理が付かない。確かに出席日数は足りなかったかもしれないけど、どうしてこのタイミングで、しかも、誰にも何も言わずに辞めちゃったんだろう?メールの宛先も残ったままで、返信の内容を見ても辞める様な素振りは感じられない。
※
大学の帰り道。
村上「でも、なんで美玖ちゃん辞めちゃったんだろうね。雫ちゃん知らない?」
雫「私もさっき聞いたばっかりだからビックリしちゃった。本当にどうしちゃったんだろう」
秋野「あんまり詮索するのもよくないだろ?五十嵐教授も言ってたけど、何か事情があるんだよ」
雫「それもそうだよね」
人それぞれ理由があるとは思うけど、やっぱり自分がこの中では一番美玖ちゃんと仲が良いと思っていただけに少し寂しい気持ちになってしまう。私じゃ相談相手として頼りなかったのかもしれないけど、出来れば辞める前に一言を声をかけてくれたら……。
村上「ん?」
見慣れない軽自動車がハザードランプを付けて止まり、窓がゆっくりと開く。
美玖「みんなー」
村上「あれ?美玖ちゃんじゃん」
雫「美玖ちゃん」
私の不安げな顔を見た美玖ちゃんは、前置きを抜いて話を切り出した。
美玖「ごめんね、雫。ちょっと色々あって辞めることになったの。今から退学届けを出しに行くところ」
村上「せっかく仲良くなれたのに残念だね」
村上君が寂しそうな顔を浮かべて、私の方に視線を向ける。
雫「……美玖ちゃん」
美玖「雫。少しの間だったけど楽しかったよ。マグカップ大切にするからね」
雫「うん……」
美玖「あと返信できなくてごめん、落ち着いたらまたメールするから」
雫「わかった。待ってる」
美玖「バイバイ、雫」
美玖ちゃんは笑顔を浮かべて、小さくうなずくと私たちに手を振って走り去っていった。
村上「コンビニって車買えるほど儲かるのかな?」
秋野「そんな事ないと思うけど」
雫「…………」
【続】