
雫「…はい」
返事をして下を向くと、やっぱり自分の胸の露出と大きさが嫌でも目についてしまう。
ママ「お茶でも飲みましょう。翠ちゃんも雫ちゃんも座りなさい」
翠さん「はーい」
雫「はい」
翠さん「あ、そういえば源氏名どうする?」
雫「源氏名?」
翠さん「うん。仮の名前だよ。芸名みたいな感じ?本名でやるのに抵抗あるって子もいるし」
雫「なるほど…確かに本名でやるのって怖い感じしますね」
翠さん「私がつけてあげようか?」
雫「本当ですか?ありがとうございます」
翠さん「“ペロペロマヨネーズちゃん”とかどう?」
雫「え…そんな思い切り芸人さんみたいな名前になるんですか?」
翠さん「そうそう。この業界は、ランクがあがる毎に可愛い名前や綺麗な名前を命名してもらえるの」
雫「へぇ~、知りませんでした」
翠さん「私も翠って名前になるまで苦労したよ」
翠さんが腕を組み、目をつぶり、うんうんと頷く。
雫「翠さんは、最初なんて名前だったんですか?」
翠さん「私?私は“あつあつコーンポタージュちゃん”だったよ」
雫「いいなぁ~。私ももっと美味しそうな名前が良いです」
翠さん「じゃあ、“ふわふわわたあめちゃん”は?」
雫「可愛い!!私それが良いです」
翠さん「痛っ!」
ママ「まったく!嘘教えるんじゃないの!!」
お茶の乗ったお盆を左手で器用に持ったママは、右手で翠さんの頭を軽く叩く。
雫「ええ!!嘘なんですか?」
ママ「嘘よ。翠ちゃんの話は、話半分で聞かなきゃダメよ。嘘ばっかりつくんだから」
ママがギロリと翠さんを睨みつけ、翠さんがたじろぐ。
翠さん「じょ…冗談だよ~軽い冗談」
ママ「翠ちゃんは、今日から“あつあつコーンフレーク”とでも名乗りなさい」
翠さん「嫌だぁ~すっごくマズそう…」
翠さんが気持ちの悪そうな顔を浮かべる。確かに熱々のコーンフレークは、美味しくなさそう。
ママ「昔は源氏名も色々ルールがあったんだけど、今は別にね。何でも好きな名前で良いのよ」
ママが、急須で入れたお茶と小さなお皿に乗った和菓子を勧めてくれた。
雫「あ、いただきます」
翠さんのお皿はすでに空っぽで口をモグモグさせ、一気にお茶で流し込んでいる。
翠さん「私は自分の名前にしてるよ。自分の名前なら忘れないしね」
雫「怖くないんですか?個人情報とかプライバシーとか」
ママ「怖いわけないでしょう?この子、何にも考えてないんだから」
翠さん「そうそう」
翠さんは、当然といった表情で頷く。
雫「翠さん…」
バカにされていることに気が付いていないらしい。
【続】