
翠さんの手からするりと抜けて、秋野君に話を振る。
秋野君は、気まずそうな顔を浮かべながら無言で頷く。
村上「ま、ちょっと……過激な感じもするけど」
雫「やっぱり、私、着替えてきます」
村上君のつぶやきに恥ずかしくなった私は、胸元を押さえてその場を離れようとする。
村上「あーいやいや。そういうわけじゃなくて。本当に似合ってる。な!!」
村上君が、秋野君の服をグイグイと引っ張る。
秋野「うん……」
秋野君は気を使っているようで、私を直視せずに視線を逸らしている。
なんだか申し訳ない気分になる。
翠さん「ほらあ、やっぱり似合ってるって。良かったじゃん。それにしても友達を誘うって言って、イケメン2人を連れてくるなんて……やるわねぇ、雫ちゃん」
翠さんが意地悪な視線を向ける。
雫「そんなんじゃないです。村上君と秋野君は、ゼミのお友達です」
翠さん「ちなみにどっちが彼氏?」
雫「だ・か・ら!!どっちも違います!!」
秋野君に好意があることを悟られないようにギュッと目をつぶり、下を向いた。顔に出ないように気を付けなきゃ。
ママ「それにしても、ずいぶん早かったわね。もしかして、一緒に来てたの?」
ママが話を変えてくれたので、翠さんの話は途中で途切れる。
翠さん「確かに凄い早かったね」
村上「なんか雫ちゃんからメールが来て、見たら…」
村上君が、秋野君に視線を向ける。
秋野「俺の借りてる部屋の下だったんだよね」
雫「え!!」
一瞬、言っている意味が理解できずに言葉に詰まる。
翠さん「秋野君って、ここの2階に住んでるの?」
秋野「はい、この真上に住んでます」
翠さん「すごーい、なんか偶然って言うか運命みたい」
運命…
ママ「だから来るのが早かったわけね。ごめんなさいね。いつもうるさいでしょう?」
秋野「いえ、もう慣れた……というか俺も音楽聞いたり、ゲームやったりしてうるさくしているので……」
翠さん「でも、2階に住んでるってことはいつでもスナックに来れるってわけね」
秋野「まあ、そうですけど。というより18歳でも働いて良いんですか?」
確かに言われてみれば、夜のお店なのに20歳未満の女の子が働いてもいいんだろうか?
ママ「女子大生なら大丈夫よ。ただ未成年だからお酒はまだね。最初は、お料理のお手伝いやお客さんのお話を聞いてくれればいいわ」
ママが私の隣に座り、緊張している私の手に自分の両手を添える。
とても温かい手だった。
雫「はい、頑張ります」
私が真剣な表情でママを見つめると、ママがニッコリと微笑む。
【続】