
雫「あれ?何か変でした?」
翠さんが、ボトルタグに顔を近づけるなり渋い表情を浮かべる。
ママ「普通はお客さんだから『秋野さん』『秋野様』って書くのよ」
雫「あー」
翠さん「『秋野君』はねぇ~、悪くはないけど」
雫「ごめんなさい!!書き直します~」
ママ「ああ、いいのよ別に」
翠さん「そうそう。実際にそう呼んでるみたいだしぃ」
秋野「真中さん、俺もそれでいいよ」
翠さん「秋野君も!!」
秋野「え?」
翠さん「雫ちゃんは、キャストなんだから苗字で呼んじゃダメだよ」
秋野「そっか」
村上「ここだとなんて呼べばいいの?」
翠さん「あ、そういえばまだ源氏名決めてないんだっけ。とりあえず今日は雫ちゃんでいいんじゃない?」
秋野「雫さんは?」
翠さん「同級生でしょ?年上や先輩じゃないんだし」
秋野「う~~ん……」
翠さん「あれ?ご納得いかない感じ?」
村上「お前、まだ『ちゃん付け』したくないの?」
村上君が、呆れたように秋野君を見つめる。
秋野「なんか馴れ馴れしい感じがするんだよな」
翠さん「なら呼び捨てでいいんじゃない?」
秋野「え!!」
秋野君が驚いた顔をする。
そして、なぜか私はドキドキしてきた。
翠さん「さあさあ、呼んでみなよ~」
秋野「……じゃあ」
雫「……」
秋野「……雫」
雫「はい!!」
秋野「……」
翠さん「ぶふーーー」
翠さんが吹き出し、それにつられて村上君もゲラゲラと笑いだす。
秋野君が顔を赤らめ、私は何が面白いのか分からず呆然としていた。
村上「あははは、今のやり取りウケる~」
翠さん「プロポーズしてるわけじゃないんだからさぁ~ぷふ」
プロポーズという単語を聞いて、段々と自分の返事に恥ずかしくなった私は、急に顔が熱くなるのを感じた。秋野君も顔を真っ赤にしている。
うう……今のは恥ずかしい。
秋野「俺、もう呼び捨てで呼ばない……」
村上「そう不貞腐れるなよお~秋野~」
村上君が秋野君の肩をがっしりと抱き、なおも笑い続ける。
【続】