
4、ありす
いつもの掃除を終えるとブラウン管テレビのスイッチを入れる。ブンという鈍い音がし、少し間を置くと真っ黒な画面が徐々に砂嵐になる。リモコンの「ビデオ1」のボタンを押し、ビデオデッキの再生ボタンを押すと、二人で何十回も見た『ふしぎの国のアリス』のアニメが始まる。画質が悪く、雑音が入り、たまに白い線が入ったりもしたが、彼女たちは食い入るように見つめた。何度も見ていたので、画面上のキャラクターがしゃべる前にセリフを言ったり、変なシーンを一時停止してゲラゲラ笑ったりした。
彼女も來未も飽きなかった。何度再生しても同じ展開なのに何度も見てしまう。同じシーンで笑って、怖がって、アニメのアリスと同じように反応していた。彼女は『ふしぎの国のアリス』の世界の虜だった。不気味で意地悪なキャラクター達は、仲間のようで仲間じゃなくて、優しそうで全然優しくない。面白いのに怖い。そんな不思議なアニメを何度も何度も見ている。自分でもなぜアリスに惹かれているのかわからない。アニメが見終わる。
來未「んんーーーー」
**「…………」
ビデオの最後の最後まで釘付けの彼女に対し、來未は途中で飽きてしまい部屋をウロウロしていた。テレビの前をふざけて通り過ぎ、彼女に「どいて!」と怒られる。來未は口を尖らせてベッドの上に寝転がる。この部屋にはだれも住んでいないが、二人がよく遊ぶのを見て、おじいちゃんとおばあちゃんがお昼寝用に布団を毎日干してくれていた。なのでベッドの上の布団とシーツはいつも清潔で、飛び込むと太陽の香りがした。
來未「あったかぁ~い、ねえねえオバケだよ」
白いシーツで全身を包み、顔だけを出した來未が言う。
**「私もやる」
彼女はソファから降り、そのまま走り出し、ベッドに飛び乗る。ベッドが傾き、來未がベッドの上で転がる。
來未「危ないよ!!怖い怖い!!」
怖いと言いつつも顔は笑っていて、頬が赤らんでいる。彼女たちは正座の状態でピョンピョンとベッドの上で跳ねた。ベッドがギシギシと揺れ、額や首筋に汗が滲み、髪も濡れた。動き疲れた來未が大の字になって倒れ、それを見た彼女は九の字になって横に倒れた。
**「二人でシーツに入って合体オバケしようよ」
來未「それ強そう。入って入って!!」
來未がシーツを広げ、その中に彼女は入り込む。熱気がこもり、サウナのように熱い。二人はシーツの中で体育座りをして見つめあう。
【続】