もう少し頑張りましょう #5

5、しーつ

体育座りの状態でじりじりと近づく。瞬きをせず、視線をそらさず、体育座りの少女たちはじっと相手を見つめていた。シーツの中は熱がこもり、隙間がないので外部からの空気を遮断している。額から汗が頬を伝い、首筋からポタリと垂れる。お互い鼻に小さな汗の玉が浮かぶ。

**「…………」
來未「…………」

これは我慢比べだった。言葉は交わさなくても既にお互いに理解しあっていた。降参してシーツを捲って外に飛び出した方が負け。來未が首筋の汗を腕で拭い、唇をペロリと舐めた。勝負はここからだという強い意志を彼女に見せつけたのだ。彼女は一瞬チラリと見えた來未の赤い舌が愛おしく思えた。意地悪な可愛い舌だった。

**「も、もうダメだ~」

彼女はすっかりのぼせ上がってしまい、目の前の來未に倒れこむ。ニヤリと勝利の笑みを浮かべた來未だったが、來未自身もすっかりクラクラしてしまい、彼女を支えることが出来ずに一緒に倒れこむ。真っ白なシーツがはだけた。倒れこんだ來未が伸ばした手が、たまたま古い扇風機のスイッチに当たり、ビーンと鈍い音を当てて回りだす。一定の周期でカラカラと何かが引っかかるような音が聞こえたが、彼女たちは気にしなかった。

彼女が來未を押し倒すような恰好のままベッドの上に倒れ、数分が経過したが彼女たちは何もしゃべらず、動きもせず微力な扇風機の風を浴び続けていた。彼女が來未の胸に耳を当て、目をつぶり、呼吸を押さえながら全神経を集中させる。暗闇の中で小さな扉をノックするような音が聞こえる。すっと目を開き、耳を当てたまま來未の顔を見上げる。來未は目をつぶり、小さく口を開け静かに呼吸をしていた。眠っているように見えるが、そうではないらしい。呼吸を整えて休んでいる。

こめかみから頬にかけて綺麗な黒髪が流れている。流れた髪は風呂上がりのように濡れていた。彼女は左手を伸ばし、濡れた髪をそっと持ち上げる。汗がしみ込んだ髪の束は少し重く感じた。

來未「ベトベトするね」
**「お風呂入りたくなるね」
來未「お風呂入る?」
**「うん」
來未「おじいちゃんとおばあちゃんが帰ってきたら言うね」
**「うん」
來未「よいしょ」

來未が上半身をぐっと上げる。彼女はさっと起き上がらず、來未の上半身からゴロリと転がり、ベッドの上から動こうとしない。シーツが濡れているのがわかる。天井を見上げると木の四角いマスが均等に並んでいる。白い糸のようなものが見えるが、あれは蜘蛛の糸なんだろうか?

**「あー起きたくないよー」
來未「ええ~」

來未が呆れた声を出し、彼女の真横に寝転がる。

【続】