
日が暮れ、生ぬるかった風は一際涼しくなる。彼女達はベッドの上で横になったまま動かずにいた。部屋が暗くなる。鈍い扇風機の音と鈴虫が小さく鳴く声が聞こえた。軽トラがでこぼこ道をガタゴトと走り去る音が遠くから聞こえた気がする。
來未「ん」
**「……」
來未が仰向けになった彼女の左腕にまとわりつく。上半身は何も身に着けておらず、下半身はショーツだけだった。濡れていた肌は乾き、やや冷たい。起き上がろうとする彼女の両肩を両手で押さえつけた來未はジッと彼女を見つめた。感情のない表情を浮かべ、目を細めている。彼女の視線は、來未の平らな胸元に注がれていた。少しぷっくりと盛り上がった胸元を見つめ、自分の胸の方が若干大きいことに気が付いた。
**「……あ」
來未が髪の毛を耳にかける。その動作が大人びていて、彼女は一瞬來未が年上の女性に見えた。首筋に舌を這わせ、予想できなかった彼女はビクンと体を震わせ、声をあげた。赤くて小さな舌が耳の裏側から鎖骨の辺りまで滑り落ちていく。くすぐったいと言うよりも説明のつかないドキドキした気持ちよさを感じた。
來未「ねえキスしようよ」
**「女の子同士はキスしないよ」
來未「だって好きなんだもん」
**「でも、変だよ」
來未「どうして?」
**「…………」
絵本やマンガの中でもキスをするのは男の人と女の人で、仲が良くて好きだからって女の子同士でキスをするのはおかしい気がする。でも、何が変なのかを正確に説明するのは難しい。
來未「私のこと好きじゃないの?」
**「そ、そんなことない。大好きだよ」
目と鼻の先に來未の顔がある。悲しげで今にも泣きだしそうだ。不安で顔がゆがみ、目に涙を浮かべている。急に取り乱した來未は、先ほどまで無邪気さがなかった。彼女は狼狽し、困惑した。
來未「…………」
**「…………」
來未の柔らかい唇が彼女の唇に重なり、まだ未発育な体が絡み合う。きっと良くないことをしているんだと思った。何がどういけないのかは言えないけど、この行為は間違いなく大人達を怒らせる行為だと感じた。プールで遊んだ時、お風呂で遊んだ時も來未の裸は見ていた。ほとんど同じ女の子の裸だったし、鏡を見ているようで何も感じなかった。でも、暗闇でもぞもぞと動く來未の身体は明るい場所で見た少女の身体ではなかった。お互いにキスをして、体をくっつけあっているだけなのに変な気分だった。
ドンドンッ!!
一階から扉をたたく音が聞こえた。彼女達は顔を見合わせて、声を殺した。
【続】