
小学校に入学する前からお母さんは私に毎日絵本を読んでくれた。その影響もあり、私は字を覚えるのが比較的早かった。簡単な漢字もお母さんに習いながら書けるようになった。漢字の練習用のノートを買ってもらい、何度も何度も同じ漢字を書いて練習した。お母さんは私の隣りに椅子を持って来て、ずっとつきっきりで私の漢字練習を見ていてくれた。
お母さん「美玖ちゃんは絵本作家さんになるの?」
美玖「うん!!」
お母さん「そっかぁ、どんなお話?」
美玖「不思議の国のアリスみたいなお話」
お母さん「凄いね。出来たらお母さんにも見せてくれる?」
美玖「う~ん、ちょっと恥ずかしいけどいいよ」
お母さん「絵本を書く人は沢山の人に見てもらうんだから恥ずかしがっちゃダメなのよ?」
美玖「わかった」
お母さん「お母さんも応援するから頑張ってね」
美玖「頑張る。書けたらお母さんに見せてあげる」
お母さん「お母さん、楽しみだなぁ~」
お母さんはいつものように優しい笑みを浮かべると私の頭をゆっくりと撫でる。お母さんは、いつも笑ってる。お皿を割っちゃっても笑ってるし、料理を失敗した時も笑っている。
美玖「お母さんの手あったかい」
お母さん「ふふふ、クッキー食べよっか」
美玖「うん!!」
ウサギの刺繍が可愛いピンクのエプロンのポケットからイチゴ味のクッキーが出てくる。お母さんのエプロンのウサギは元々1匹だけだったけど、お母さんがミシンで子供のウサギを刺繍してくれた。大きいウサギがお母さんで、小さいウサギは美玖ちゃんと言ってくれた。私は胸がいっぱいになった。
お母さん「入学式のリボン、取らないの?」
美玖「うん。ずっとつけていたいの」
お母さん「嬉しいなぁ。気に入ってくれたの?」
美玖「うん。お母さんと一緒に学校に行ってる気持ちになるの」
お母さん「あ……」
あの時、今思えばお母さんは涙を浮かべていたような気がする。
美玖「お母さん?」
お母さん「そんなに甘えん坊じゃ、学校で他の子に笑われちゃうわよ?」
美玖「えーやだよー」
お母さん「大丈夫大丈夫。明日の準備はできた?」
美玖「あ、まだしてない」
お母さん「じゃあ明日の準備をしてから絵本を書こうね」
美玖「うん。わかった」
お母さんはもう1度私の頭を優しくなでてから部屋を出ていく。私はクッキーを食べてから明日の準備を始める。ピカピカの教科書、ピンクのウサギで揃えた文房具。大切な宝物のようにランドセルにしまう。入れた教科書やノート、文房具を何度も出し直し、間違っていないかを確認してから布団に入る。
【続】