もう少し頑張りましょう #11

自分の席に座り、恐る恐る隣の席に座っている女子に目を向ける。

美玖「あ、あの…おはよう。私は長谷川美玖」

こちらを振り向いた瞬間、黒の長髪がサラリとなびいた。整った顔立ちは、まるで大人のように見える。白いブラウスに青いロングスカートを穿いた彼女は私の姿をジロジロと見つめた。

栞「七瀬栞。よろしく」

栞ちゃんは、私の頭をじっと見つめる。

美玖「どうかした?」

栞「リボン」

美玖「あ、これ?お母さんが作ってくれたリボンなの」

栞「ふーん、ちょっと子供っぽいんじゃない?」

美玖「そ、そうかな……」

すっかり褒めてもらえると思った私は、思いもしない言葉にショックを受ける。栞ちゃんは、正面を向いて、私に声をかけるのを止めた。私は子供っぽいと言われたリボンが気になって仕方がなかった。あんなに気に入っていたのに急に恥ずかしくなってしまう。自分は悪い子なんじゃないだろうか。

一番最初の授業は、自己紹介だった。前に出て、自分の名前と好きなことを発表する。みんな自分のことで精いっぱいだったから、他の人の発表は頭に入ってこない感じだった。ふざけて笑わせてくる男の子や喋れなくて泣きそうになる女の子もいた。

栞ちゃんは、英会話と習字をを習ってると言ってABCを最後まで言ってみんなを驚かせていた。先生も「七瀬さんは英語の先生になれるかもしれませんね」と褒めていた。私は、栞ちゃんみたいに勉強が出来るように頑張りたいと思った。

私の番になった。緊張しながら前に出る。黒板の前に立ち、正面を向くとまだ見慣れないクラスの友達が私を見つめている。ドキドキしながら自分のことを話す。漢字を練習してること、お母さんが作ったハンバーグが好きなこと。お母さんが作ってくれたリボンが好きと言うことも言いたかったけど、さっきの栞ちゃんの言葉が浮かんで言えずに押し黙ってしまった。

先生「ん?もう終わりかな?長谷川さんのリボンは素敵ね」

美玖「これは…お母さんが作ってくれました……」

女子「可愛い~」

先生「長谷川さんのお母さんは手先が器用なんですね」

私は小さく頷いて、そのまま席に戻る。先生とクラスの女の子に褒められ、私は顔が真っ赤になっていくのを感じた。お母さんの作ってくれたリボンをみんなが褒めてくれた。可愛いって言ってもらえた。たったそれだけのことだけど、小さな私にとっては何よりも幸せな瞬間だった。

【続】