もう少し頑張りましょう #14

4時50分頃から不安になった私は、家の中をウロウロしていた。お母さんはいつもみたいに「大丈夫大丈夫」「準備に時間がかかってるの」「驚かそうとしてるのかも」と全然慌てていない。

約束の5時を過ぎても誰も来なかった。私はほとんどパニックになりながらお母さんに「何で来ないの?」と叫ぶように声を上げた。栞ちゃんが来ないのは分かる。意地悪だから。でも桜ちゃんと幸奈ちゃんは何で来ないの?友達って言ったのにリボンだってお揃いだったのに…。何度も時計を見て、ドキドキと痛む胸をギュッと押さえ、玄関の扉が開くのを待った。

お母さん「美玖!!」

我慢が出来なくなった私は家を飛び出した。みんなに見せて驚かせようと思って買ってもらったブラウスとミニスカートに裸足のまま…。どこかで迷ってるのかも、その角を曲がったら「びっくりした?驚いた?」って桜ちゃんと幸奈ちゃんがプレゼントを持って出てくるんじゃないか?そんなことも考えた。でもどこにもいない。誰もいない。私は泣き出した。手をブルブルと震わせながら、電柱の下でしゃがみ込んだ。

美玖「…………」

お母さん「美玖。帰ろうか」

美玖「なんで誰も来てくれないの?」

お母さん「きっと用事が出来たんじゃないかな?」

美玖「行くって言ってたよ。絶対に行くって…友達だからって…」

お母さん「うーん」

お母さんは悪くない。そんなことは分かってる。でも私は誰かに当たらずにはいられなかった。自分が生まれた日。好きな友達と一緒に過ごす大切な日が……。お母さんがしゃがみ込んで背中に手を当ててくれる。すごくあったかい。

お母さん「大丈夫大丈夫」

お母さんはいつでもそう言う。何が大丈夫なんだろうといつも思う。酷いことが起きてるのに何が大丈夫だと言うんだろう。でも、お母さんの言葉には魔法みたいな力があって、大丈夫大丈夫と言われれば、何もかもが大丈夫な気がしてくる。

お母さん「お母さんとお祝いしよ。美玖にプレゼントがあるの。きっと喜ぶと思うなぁ~」

美玖「…………」

私は立ち上がった。ブラウスに土が跳ね、スカートに小さな汚れが付いている。お母さんに軽くしてもらった化粧も涙でグチャグチャになってしまった。お母さんに手を引かれて、家に戻る。裸足で出てきたから足の裏が痛い。

私とお母さんは2人で誕生日パーティーをした。ケーキの作り方を教えてもらって、チキンやステーキを食べた。お母さんは、来れなかったみんなの分も食べちゃおと笑顔で私の頭を撫でた。オレンジジュースを飲んで、プレゼントを受け取った。プレゼントは新しいシューズだった。私は走るのが大好きだったので目を真ん丸にして喜んだ。誕生会が終わり、お母さんが片づけを始める。私も食器を下げたり、テーブルを拭いたりして手伝いをした。

【続】