
お母さん「美玖?どうしたの?」
美玖「え?」
お母さん「さっきからお母さんのこと見て」
美玖「お母さんの絵を描いてるの」
お母さん「似顔絵?」
美玖「ううん。学校の宿題」
お母さん「へぇ~お母さんにも見せてよ」
美玖「ダメ!まだ出来てないもん!」
お母さん「え~気になるなぁ」
美玖「完成したら見せてあげる」
お母さん「美玖~♪」
美玖「変な顔しないで!!」
お母さんがふざけて変な顔をする。私は止めて欲しいと言いながらも、楽しそうなお母さんの顔にニコニコしてしまう。お母さんは、綺麗な肌色。目はパッチリしていて、唇はピンク色。ニッコリと笑った口は大きめに描く。実はこの画用紙は3枚目で何回も失敗していた。
1枚目は顔を大きく描きすぎた。2枚目は顔の形が変だった。お母さんの笑顔は大好きだったから、見なくても描けると思っていたけど、いざ書いてみるとなかなか上手に描けない。3枚目は自分でも納得できるくらい上手に描けていた。途中経過を担任の野中先生も「とてもよく描けてますね」と褒めてくれた。
お母さん「ちゃんと美人に書いてね」
美玖「うん」
翌日。お母さんの顔を描く授業の最終日だった。みんな最後の調整に入っていた。適当に描いて終わった男子たちはすでに飽きていて、関係のないおしゃべりをしたり、まだ出来ていない子の邪魔をして野中先生に怒られていた。私は静かに自分の絵を描き続けた。お母さんの目元をしっかりと描きあげて私の作品は出来上がった。お母さんに見せたら、きっとこの絵と同じような笑顔で喜んでくれる。
しばらくして、騒いでいた男子のうちの1人がイスから落ちて膝を擦りむいた。私は保健の係りだったので、野中先生とケガをした男子と3人で保健室へ行った。自業自得だと思ったし、膝をケガしたくらいで大げさだと思った。男の子の癖にカッコ悪い。
教室に戻ると私に視線が集まる。嫌な予感が頭をよぎり、自分の席に走って戻ると私の絵がグチャグチャにされていた。綺麗な肌色が黒と茶色で塗りつぶされ、目が真っ赤に塗られている。目も口も耳もグチャグチャで、悪魔や妖怪みたいな絵になっている。心臓がドキドキする。
栞「なにこれー、みんな見てコレ」
美玖「や、やめ……」
止めて欲しいと声を出そうとするが何も言えない。声が出ない。栞ちゃんが私の絵を奪い取り、両手で上にあげる。正しく首をとったような状態で、バカにしたように笑う。男子も女子もみんな私の絵を、お母さんの絵だったものを笑う。
【続】