
教室から逃げるように出て行く。栞ちゃんが無理矢理引っ張って奪い取り、私に投げ返してきたリボンを公園のベンチで付け直す。上靴の跡やホコリを掃って、トイレの鏡で確認する。多分、気が付かないと思う。ブラウスとスカートの汚れも掃う。
美玖「……う、うぅ」
さっきの出来事を思い出し、私はしゃくりあげて泣き出してしまう。泣きつくした私は、涙を拭き、小さく深呼吸をして目をつぶった。それから、鏡に向かって笑顔を作り、家路に着いた。
お母さん「美玖、おかえり」
美玖「ただいま~」
玄関に入り、出来るだけ顔を見せないようにして靴を脱ぐ。涙は拭いたけど、目は充血しているし、鼻も赤かった。洗面台で顔を洗って知らないふりをしたい。お母さんの悲しい顔だけは見たくなかった。
お母さん「似顔絵は?上手に描けたの?」
美玖「うん…」
お母さんに返事をして、その横を通り過ぎていく。
お母さん「美玖!!」
美玖「え……」
お母さん「どうしたの?コレ」
美玖「あ…」
私はブラウスの後ろを踏まれていたのを忘れていた。お母さんが驚いた表情をして、私の背中を摩る。私は泣き出しそうになるのをグッとこらえて、視線を泳がせる。何とか誤魔化そうと頭を回転させるが何も思いつかない。
美玖「……」
お母さんが私をギュッと抱きしめる。抱きしめられた瞬間、我慢していた涙が溢れ出す。そして、私は、今日あった出来事を全て打ち明けた。栞ちゃんという意地悪な女の子が隣りにいて、私に意地悪をしてくること、リボンを無理矢理取られたこと、桜ちゃんと幸奈ちゃんが助けてくれなかったこと、秀幸君が私の背中を踏んだこと。でも、お母さんが悲しむと思って貧乏だと言われたこと、似顔絵をぐしゃぐしゃにされたことは黙っていた。
お母さんは、私の目を見つめて「うんうん」と話を聞いてくれた。最初は泣きながらで上手にしゃべれなかったけど、自分の辛さや嫌だったことを全部話すことで少しずつ落ち着いてきた。
お母さん「美玖は、他の子を叩いたの?」
美玖「叩かなかった…」
お母さん「どうして?」
美玖「怖かったから、あと叩くのは良くないから…」
お母さん「叩いてもいいんだよ」
美玖「え……」
それは予想できない言葉だった。いつも優しいお母さんが絶対に言わない言葉だった。私は一瞬理解できず、自分が効き間違えたのかと思った。お母さんは真剣な表情だった。
お母さん「美玖は優しいからね。でも、自分が嫌だと思ったら我慢しなくてもいいんだよ?やられたらやり返してもいいの。美玖はケンカをするのが嫌なんだよね?」
美玖「うん、仲良くしたいから…」
お母さん「それは良いことだと思うよ。でも、自分のことも守らなくちゃダメ」
【続】