
美玖「…………」
お母さんの真面目な顔に、私はまるで自分が悪いことでもしたかのように黙りこくってしまう。どうして、お母さんがこんな顔をしているのかを考えようとするが、答えが出ない。学校での出来事を思い出し、私の目に我慢していた涙が溢れ始める。
お母さん「美玖は本当に優しい子だね」
お母さんが私の頭をゆっくりと撫でてから、エプロンのポケットからハンカチを取り出して、涙を拭いてくれた。私は鼻を啜って、目を擦る。
お母さん「本当に嫌な時は嫌って言いなさい。自分が悪くないと思ったら先生に相談してご覧」
美玖「先生は……」
似顔絵を見て困惑した野中先生の顔を思い出し、私はまた暗い気持ちになった。
お母さん「う~ん」
お母さんは腕を組み、口をへの字にして宙を見上げた。そして、ハンカチを取り出したポケットと逆のポケットから小さなお守りを取り出した。ニッコリと笑ったウサギの刺繍、裏側には『MIKU』と刺繍されている。
お母さん「ローマ字って言う文字でね、美玖って書いてあるんだよ」
美玖「私の名前?」
お母さん「そう、ちょっと待ってね」
お母さんは目をつぶり、両手でお守りを握りしめると「大丈夫大丈夫」と言ってから、私に「はい」と言って渡してきた。私は口をポカーンと開けたまま、お守りを受け取ってじっと見つめた。
美玖「お母さん?」
お母さん「今、お母さんがお祈りしたからもう大丈夫。何かあれば美玖を守ってくれるよ」
美玖「…………」
お母さん「さ、シャワー浴びてきなさい」
美玖「うん」
お風呂から上がった後、お母さんと夕食を食べる。桜ちゃんと幸奈ちゃんの名前が出なくなり、嫌なことがあった学校の話……お母さんは、学校の話をしないで、今度行く水族館の話、テレビの話を楽しそうにしてくれた。お母さんは味方だ。桜ちゃんも幸奈ちゃんも栞ちゃんや他の子も野中先生も助けてくれないけど、私にはお母さんがいる。お守りがある。
美玖「お母さん……」
お母さん「ん?どうしたの?」
私は食事中だけど立ち上がり、お母さんの隣りでエプロンを少し引っ張る。ただ甘えたかった。食事中に立ち歩くのは良くないと前に怒られたことがあったけど、今日は怒られなかった。お母さんは私の手を握ってくれた。とても温かくて、柔らかい。
美玖「お母さんの元気をもらってるの」
お母さん「なにそれ~変な美玖~うふふ」
美玖「あ、言っちゃダメだよ」
お母さん「なにが?」
美玖「私が泣いてたのと……元気もらってるの……」
お母さん「どうしようかなぁ~言っちゃおうかなぁ~美玖の甘えん坊」
美玖「ダメダメ!!」
お母さん「大丈夫大丈夫。早く食べちゃいなさい。片付けちゃうよ」
美玖「は~い」
【続】