
似顔絵事件の翌日。私はお母さんから貰ったお守りを握りしめて学校へ向かった。子供っぽいリボンを付けるのは止めた。おでこを出して、髪の毛を後ろで縛ってポニーテールにした。黒いヘアゴムで留めてポニーテールを作り、バカにされないようにした。お母さんは「大人っぽくて可愛い。美玖はおでこの形が綺麗だからいいね」と褒めてくれた。
緊張しながら教室の扉を開ける。栞ちゃんのグループは、私が教室に入るなりジロジロと見つめ、くすくす笑う。机の中にはゴミが入っていた。
栞ちゃん「美玖ちゃん~ゴミ集めてるの?私のゴミもあげよっかー?」
美玖「…………」
栞ちゃん「なになに~無視~?」
私はクラスで完全に孤立していた。桜ちゃんと幸奈ちゃんは、私を見て見ぬふりをすることに後ろめたさを感じることもなくなり、私が栞ちゃんのグループから悪口を言われていても、教室の端で他の友達たちと笑い合っている。
栞ちゃん「ねぇ~秀幸君~」
秀幸君「なんだよー」
さっきからこっちをチラチラと見ていた秀幸君が呼ばれて初めて気が付いたかのようにやってきた。秀幸君は栞ちゃんが好きなようだ。栞ちゃんの前でいいカッコをしたいんだと思う。
栞ちゃん「なんか美玖ちゃんが挨拶したのに無視するんだよ」
美玖「挨拶なんてしてないじゃん……」
秀幸君「挨拶しろよ!!先生にも言われてるだろ!!」
愛衣「挨拶しなさいよ!!」
美玖「しない!」
私は栞ちゃんグループと秀幸君を睨みつける。秀幸君が動揺し、栞ちゃんをチラリと見る。イライラした栞ちゃんが秀幸君に視線を向ける。
栞ちゃん「秀幸君」
秀幸君「美玖、お前生意気だぞ」
美玖「痛っ!!」
秀幸君が、私の肩をグーで殴りつける。女子を殴る男子なんて最低だ。秀幸君は背は他の男子よりも少し高いけど痩せていた。グーで殴った後に私の右手首をギュッと握る。私が「痛い」と目をつぶると、ニヤニヤと笑いだした。その光景を栞ちゃんが満足そうな顔で愛衣ちゃんと笑う。
秀幸君「どうだ!痛いだろ!」
美玖「痛い……」
秀幸君「じゃあ、栞に挨拶しろよ」
美玖「嫌だ!!」
秀幸君「あっ!!」
私は秀幸君の隙をついて右手をサッと引き、そのまま右手で拳を作って秀幸君の口元を思いきり殴った。秀幸君は、「うわあ」と情けない声を上げ、口を押さえたまま倒れる。そして、その後ろで偉そうに椅子に座っていた栞ちゃんごと倒れた。倒れた秀幸君と栞ちゃんの姿はかなりカッコ悪い感じだった。
栞ちゃん「ど、どいてよ」
秀幸君「い…いてぇ~うぅ」
秀幸君は起き上がり「痛い痛い」と言いながらボロボロ泣いていた。血は出ていなかったが唇が大きく腫れていた。栞ちゃんは何事もなかったように立ち上がると顔を真っ赤にして秀幸君を睨みつけた。いつまでも泣いている秀幸君を他の男子が笑った。
男子A「秀幸だっせー女子に負けてやんの」
男子B「カッコ悪いな」
その日から秀幸君は私に近づかなくなり、大人しい男子のグループに入った。私は机の中でお守りをギュッと握りしめ、心の中で「大丈夫大丈夫」と心を落ち着けた。
【続】