
栞ちゃん達は相変わらず私に嫌がらせをしてきた。それでも私はお守りを握りしめ、知らないふりをしていた。勉強に集中して、机に落書きをされても反応しないようにした。
栞ちゃん「ねえねえー美玖ちゃんってナジャ様に似てなーい?」
休み時間。ずっと無視している私の横で、わざとらしい大きな声で栞ちゃんが萌恵ちゃんと愛衣ちゃんに声をかける。二人は「似てる~」と言ってゲラゲラ笑った。
ナジャ様というのは、日曜日の朝にテレビでやっている『魔法少女パープルティーン』というアニメに出てくる悪の女王様のことだ。瞳の色が紫色でツリ目、おでこを出している。美人で冷酷な魔女という設定で、毎回偉そうに命令をしている。
栞ちゃん「栞ちゃんのことナジャ様って呼んでもい~い?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら栞ちゃんが私の机を足で揺らす。
美玖「嫌だ……」
栞ちゃん「全然聞こえないよー」
美玖「…………」
しつこい。何でこんなにしつこいんだろう。私はウンザリしていた。それでも、このクラスに私を助けてくれる人はいないし、居場所もない。私は1日中苦痛を感じながら夕方まで過ごしていた。ナジャ様というキャラクターの影響で同じ年代の女の子達は、おでこを出した髪形を止めていた。
悪役=敵=いじめられる
私は止めなかった。おでこを隠したら栞ちゃんに負けたことになる気がしたからだ。
栞ちゃん「美玖ちゃんって魔女だったんだねー」
愛衣ちゃん「怖ーい。魔女がなんで学校通ってるの?」
美玖「…………」
萌恵ちゃん「何とか言ってよ~ナジャ様~」
栞ちゃん「貧乏で魔女なんて最悪~」
愛衣ちゃん「うわぁ~ナジャ様が睨んでくるよ」
萌恵ちゃん「私たちのこと呪わないでね~」
栞ちゃん「ナジャ様のお母さんが売ってる文房具って魔女の道具なんじゃない?」
愛衣ちゃん「え~嫌だ~私お母さんに言ってナジャ様のお店で文房具買わないように言わなきゃ」
栞ちゃん「そしたら、今よりも貧乏になっちゃうね、ナジャ様」
美玖「……私は美玖だもん」
返答しなければよかった。心臓がドキドキして、我慢できなくて、本当は掴みかかって思いきり叩いてやりたかった。なのに怖くて声が出てこなかった。やっと出てきた声を聞き、栞ちゃんが意地悪な笑みを浮かべた。三人が私を囲み、罠にかかった獲物を眺めるように見つめる。
【続】