
魔女の本の呪いなのかは分からないけど、本を貰った翌日、布団から出られなかった。頭がズキズキ痛み、全身が焼けるように熱い。ベッドが揺れている気がして、天井がうねって見える。お母さんが心配そうに私の顔を覗き込む。おでこに手をやってから水で絞ったタオルで首筋を拭き、再び絞ったタオルをおでこに乗せた。
お母さん「きっと風邪ね。お休みしましょ。先生に電話しておくから」
美玖「……行く」
元気に声を出そうとしたが、喉がヒリヒリして声が上手く出せない。私は入学してから一度も休んだことがなかった。起き上がろうとするが身体が重くて力が出ない。お母さんが両肩を握って、寝かしつける。
お母さん「無理しちゃダメよ。ちゃんと寝るの」
美玖「……うん」
自分がいない教室を想像する。栞ちゃんたちが私の机やイスを踏んだりする。また机の中にゴミを入れて、私がずる休みをしたとか陰口を言ってるに違いない。明日が怖い。上靴が隠されたり、変なことをされてないといいけど……不安を感じながら目をつぶると私はそのまま眠りについた。
不思議な夢を見た。古びたお城が見える。レンガ造りの三角形の屋根に、白いレンガで組まれたお城。ずっとゴゴゴゴゴと地割れのような音がして、空は血のように真っ赤に染まっている。私はパジャマ姿でお城に向かっていく。本当は怖くて近づきたくもないのに足が勝手にお城に向かって前進する。お城の門を越えると階段が見え、私はそのまま階段を上っていく。
魔女「いらっしゃい」
王座にはドクロの杖を持ったナジャ様が足を組んで座っていた。フリルの沢山付いた真っ黒なドレスに透明なヴェールを被り、赤黒い唇がニヤリと笑う。
私は何も言えずに立ち尽くしていた。ナジャ様がゆっくりと王座から立ち上がった瞬間、私が瞬きした時にはすでに目の前にナジャ様の姿はなかった。ヴェールが私の肩に触れる。
ナジャ様「可愛いおでこね」
ナジャ様が低いトーンで声をかけ、私のおでこを突き、静かに笑う。真後ろに立ったナジャ様は、両手を伸ばし、私の胸元でクロスさせる。私の肩にナジャ様の頭が乗る。ひんやりして冷たい。
ナジャ様「貴女のお名前は?」
美玖「長谷川美玖です……」
ナジャ様「美玖ちゃん、私とお友達になってくれる?」
美玖「私、人間ですけど……」
ナジャ様「魔女と人間が仲良くするのってダメなのかしら?」
美玖「ダメじゃないです。仲良くなりたいです」
後ろの気配がなくなると、すぐ目の前にナジャ様が現れる。閉じていた目がゆっくりと開き、紫の瞳が露になった。ナジャ様が微笑むと同時に私の背中から声が聞こえる。
【続】