
私は身体が硬直して動けなくなっていくのを感じる。目が見開き、栞ちゃんへの憎悪が溢れ出るのを必死に堪えた。私はまだ栞ちゃんを憎み切れていなかった。心のどこかで何かの間違いだと思いたかった。本当は自分と仲良くしたいから気をひくためにわざと意地悪してくるんじゃないかとか、いつかは何かのきっかけで仲良くなれる時がくるんじゃないかとか、そんな希望をどこかに持っていた。
でも、栞はそんな女の子じゃない。私を心の底からバカにして笑っている。ただ弱い者いじめをしたいだけ、仲間外れにして喜んでいる。
美玖「…………」
私は栞以上にそれに気が付かなかった自分自身に頭にきていた。まんまと騙されて、大好きなお母さんのお店から栞が盗んだマーカーを内心喜んで受け取った。栞は良い子なんじゃないか。私の欠席を心配してくれたんだ。そんな気持ちになった私を見て、しめしめと、何にも気が付かないバカな子だと笑いそうになる口元を必死に我慢していた。
美玖「どういうことなの?」
私は振り返り、怒りの形相で桜ちゃんの両肩に掴みかかる。桜ちゃんは怯えた表情で私を見つめるが、私は表情を変えない。私がどれだけ泣いても酷い目に遭っていても桜ちゃんは助けてくれなかった。そんな怯えた表情をしても私の気持ちは揺るがない。
桜「栞ちゃんが美玖ちゃんのママのお店に行こうって……萌恵ちゃんと愛衣ちゃんもいたし、怖くて断れなくって……。それで、私が美玖ちゃんのママと話をしている間に栞ちゃんが……」
美玖「…………」
桜「でも私は盗ってないんだよ。栞ちゃんが盗ったの。だから私は……その」
美玖「関係ないって言いたいの?」
桜「関係ないってわけじゃないけど……」
美玖「…………」
桜「私、悪くないよね?」
全身が熱い。今すぐ目の前の桜ちゃんを殴ってやりたかった。断れなくて?悪くない?どういうつもりなの?この期に及んで自分は悪くない?私は頭に血が上って行くのを感じた。桜はダメだ。栞より最悪。もう見たくもない。
美玖「もういいや……」
桜「先生やお母さんに言わないよね?」
美玖「知らない。もう話しかけないで……」
桜「ちょっ!ちょっと待って……」
桜は涙を浮かべて私の前に立ちはだかる。両手を広げ、逃げられないようにしているつもりらしい。泣きたいのはこっちなのに、もっと泣きたい時があったのに何度も泣いたのに……お前は笑ってた。他の友達と違う次元にいるかのように……。
【続】