
私が振り向くと、右目に眼帯をしたショートカットの女の子が私のノートをじっくりと見ている。私はとっさにノートを隠し、女の子にそっと視線を向ける。女の子はきょとんとした表情で私の顔を見つめる。悪意は全くないようで、視線が合うなりニッコリと笑みを浮かべた。私は視線をそらし、不貞腐れる。勝手に他人のノートを見るなんて非常識だ。私が何も言わずにいると、女の子は隣りの椅子をひき、着席した。ラベンダーの香りがする。
月江「私、樺沢月江。5年3組。よろしくね」
美玖「……美玖」
月江はニッコリと笑顔で挨拶をしてきた。声が大きいので、私は周囲をキョロキョロと見渡す。出来るだけ目立ちたくないのに迷惑だ。私は素っ気なく、小さな声で自分の名前をポツリと呟いた。
月江「ねえねえ、貴女も5年生でしょ?」
美玖「うん」
月江「私、最近転校してきたばっかりなんだよねー」
美玖「ふーん」
月江「でも全然友達が出来なくていじめられてるんだよねー」
美玖「……そうなんだ」
私は興味なさげに相づちを打ち、頭に入らない小説を適当に捲っていた。月江は私の反応は気にせずに勝手にしゃべり続ける。
月江「下駄箱はゴミが入ってるし、机は落書きだらけ、体操服も汚れてるし、教科書を読めば笑われるし、給食も一人」
美玖「で何?私も寂しそうだから声をかけてみたってこと?」
イライラしてきた私は、高圧的な態度で返答した。私も同じようなことをされていた。だけど、それが寂しくていじめられっ子同士集まって傷をなめ合うのは情けないし惨めなだけだと思った。
月江「うん。やっぱり自分に似た人と付き合うのが一番いいかなーって」
美玖「私達、全然似てないと思うんだけど……」
月江「そうかなぁ~仲良くなれると思うよ~」
美玖「そんなに明るいならすぐに友達出来るよ。じゃあね」
居ても立ってもいられなくなった私は本を閉じ、席を立った。友達なんていらない。友達はワガママで直ぐに裏切るし、平気でうそをつく。月江だって友達が出来れば私から離れていくに違いない。
月江「私も帰る~待ってよ~」
美玖「ついてこないでよ」
月江「そんなこと言わないでさ」
月江は私の腕にまとわりついて離れようとしない。私はなぜか小さい頃に一緒に遊んだ少女のことを思い出していた。毎日が希望と夢に溢れていた一番幸せだった時期を……。
【続】