もう少し頑張りましょう #31

月江「凄いねぇ~美玖ちゃんの家はお店屋さんなんだ」
美玖「うん、雑貨屋さん。文房具とか売ってる」
月江「お菓子も食べ放題ってこと?夢のお城みたいじゃん!」
美玖「夢のお城って……子供みたい」

月江が嫌なところは子供っぽさだった。小学校に入る前、入学して直ぐの頃の自分を思い出させるような雰囲気が嫌だった。バカにされていたリボンを付けていた時の自分を見ているようで気分が悪い。月江は幼稚だ。だからバカにされるんだ。イジメられるんだ。静かに目立たないで過ごしていればいいのに……。こうやってクラスではしゃいだりするから目を付けられるんだ。

お母さん「美玖だって子供でしょ~月江ちゃん、好きなお菓子食べていいよ」
美玖「お金払ってよ」
月江「おばさん、私ちゃんとお金持ってるから大丈夫だよ」

月江はランドセルから小さながま口を取り出した。がま口はカラシ色で、大きいお地蔵さまと小さなお地蔵様が寄り添ってニコニコ笑っている絵が描かれていた。しかし、ランドセルやキーホルダー同様に薄汚れ、生臭い臭いのするシミが付いていた。クラスのいじめられっ子にやられたんだろう。

お母さん「可愛いお財布ね」
月江「うん!おばあちゃんがくれたの!」
お母さん「おばあちゃん好き?」
月江「大好きです。優しくて大好き」
お母さん「そっか。今日はおばさんがご馳走してあげるから本当にお金はいいのよ」
月江「えっと……でも……」

月江は申し訳なさそうな顔で私をチラリと見る。私はその視線に気が付いたが知らないふりをする。

美玖「知らない。お母さんがいいならいいんじゃない?」
月江「やったあ~美玖ありがとう」
美玖「だから私はどっちでもいいんだって」
お母さん「好きなお菓子食べてていいわよ。今ホットケーキ焼くからね」
月江「あ、私も手伝います!ねえ、美玖もやろうよ!」
美玖「えぇ~」
月江「おばさん!私もやります!」
お母さん「そう?じゃあ、一緒に作りましょうか」

月江は自分からやりたいと言った割に料理は全然できなかった。卵をかき混ぜるのもヘタクソでよそ見をしながらかき混ぜるので卵を零しちゃうし、急に吹き出して小麦粉を空中に舞わせちゃう。結局、ホットケーキも焦げ焦げになってしまった。それでも、お母さんは楽しそうだったし、私も久しぶりに友達と遊べて嫌な気持ちは……まあしなかった。

【続】