
思わず本音が漏れる。月江は少し驚いた顔をした。私は両手をすっと引くと、席に座り直す。
月江「笑うって誰が?」
美玖「誰がって……クラスの子とか……」
月江「美玖ちゃんは面白い本を紹介して笑われるとか、そういうこと?」
美玖「そうじゃなくて。失敗したり、普段目立たないから……きっと前に出るだけで「誰あの子みたいな」……」
月江「じゃあ目立つチャンスじゃない?やったね!」
美玖「私は目立ちたくないの。それに……」
???「美玖~」
聞き覚えのある嫌な声は1年生の時と全然変わっていなかった。演技がかったわざとらしい、凄く嫌味な鼻につく声。私と月江が振り向くとそこには栞が立っていた。口元に笑みを浮かべながら近づいてくる。私は視線をそらし、焦っているのを悟られないように無表情を貫く。
栞「名前で呼ぶの久しぶりかも~それともメガネちゃんとかリボンちゃんの方が良いかな?」
美玖「…………」
私は何も言い返せなかった。自分に自信がなくなった私は何もかも我慢していた。嫌なこともやりたいことも自分の考えも全部を抑え込んでいた。変な子だと思われたくない、バカにされたくない、目立ちたくない。自分がリボンが好きだったこと、眼鏡をかけていること……それは言われたくないことだった。それをわざわざ分かっていて聞いてくる栞が嫌い。
栞「……ふふ」
美玖「…………」
何も言えずにいる私の反応に満足した栞は楽しそうに笑うと月江に視線を移す。月江は特に表情を変えることもなく不思議そうに栞を見返す。
栞「誰?美玖の友達?」
月江「うん」
栞「汚い服……洗ってないの?」
月江「一応洗ってるんだけど落ちないんだよね」
栞「へぇ~新しいの買ってもらえないの?貧乏なんだね~美玖と一緒じゃん。ねえ?」
美玖「…………」
ダメだ。やっぱり何も言えない。身体が動かない。栞には勝てない。また貧乏だってバカにしてくる。その後はお母さんのことをバカにしてくるんだ。いつもそうだ。我慢していた涙が溢れそうになる。鼻の先がツンとなる。泣いたら栞はもっと喜ぶだろう。クラスのみんなに話すだろう。
月江「美玖ちゃんの家は貧乏じゃないと思うけど」
栞「だって雑貨屋でしょ?ゴミばっかりじゃん」
月江「あれは商品なんだよ。知らないの?」
栞の表情がサッと変わり、余裕のある笑みが消えた。月江は顔色一つ変えずに栞を見つめる。
栞「はあ?知ってるし!」
月江「じゃあ他のお店で売っている商品のことをあなたはゴミって呼ぶの?」
【続】