
栞「はあ?な、なんなの?バカじゃないの?」
栞は目を見開き、鼻息を荒くして怒っていた。その姿に余裕はなく、手も震えていた。月江の表情は変わっていなかったけど、堂々としていて全く怖気ずく様子もなかった。私は2人の様子をまるで舞台を見るかのように傍観していた。
栞「ムカつくんだけど、意味わかんない!!」
図書館の先生「そこの女子、静かにしなさい」
栞「う……な、なんなのよ……」
図書館の先生に指摘された栞は顔を真っ赤にする。周囲で下級生がクスクスと笑い、気まずくなった栞は私達を睨みつけると早足で図書館を出て行った。私は口をポカンと開けたまま、栞の背中を見つめた。
美玖「月江……ありがと」
月江「私たち友達だもん。それに美玖ちゃんのことバカにするし、あの子嫌い」
美玖「うん……わ、私も嫌い……」
月江「泣いてるの?」
美玖「泣いてないよ、栞なんか怖くないし……」
月江「きっとあの子は美玖ちゃんに嫉妬してるんだよ」
美玖「嫉妬って……栞は友達多いし、背高いし、勉強もできる。私が持ってないものを全部持ってるんだよ?嫉妬することなんか一つもないはずだよ。私は暗いし、影薄いし……」
月江「あの子は何も持ってない気がするけどなぁ……」
美玖「…………」
月江「あ、コンクールの本だけでも決めちゃおうよ。早くしなきゃ図書館閉まっちゃうよ」
美玖「うん……」
いつもみたいに隣りに月江が座り、私は鼻を啜って眼鏡に付いた涙をハンカチで拭いた。結局、本は決まらず閉館すると同時に私達は図書館を出た。夕焼けがとても綺麗で、私と月江は校門の前で見惚れてしまった。暖かくて柔らかいオレンジの空に、黒いカラスの集団が一定の間隔を取って山へ向かって飛んで行く。
美玖「ウチ……寄ってく?」
月江「いいの?やったー遊びのお誘いだね?」
美玖「そんな感じ……」
月江「あ、笑った?」
美玖「笑ってない」
月江「絶対笑ったよ!見たもん!」
美玖「ちょっと顔覗き込まないでよ……」
月江「美玖ちゃんの笑顔見たい~」
美玖「笑ってない。もう一生笑わない」
月江「も~なんで~」
家に帰るとちょうどお母さんも家に帰ってきたようで、買い物袋を置いたところだった。私達の顔を見るとお母さんはニッコリと笑った。月江は私よりも先にコンクールのことを話し、お母さんは「美玖、凄いね。頑張ってね」と応援してくれた。私は素っ気ないフリをしたが、本当はお母さんの喜ぶ顔が嬉しくて仕方がなかった。なんだか落ち着かず、そわそわしながら月江とお母さんの手伝いをした。
【続】