
お母さん「それで何の本にするか決めたの?」
美玖「まだ、今日決まったばっかりだし」
お母さんが花柄のティーカップを私と月江の前に置く。月江はショートケーキを見つめながら目をキラキラ輝かせている。お母さんが「どうぞ」と言うと月江は「いただきます!」と笑顔で答え、早速フォークでイチゴを刺し、一口で食べてしまう。
月江「んーーーー美味しい♪美玖ちゃんも食べようよ」
美玖「私は後で食べるの」
月江「えー早く食べたくない?」
美玖「好きなものは後で食べる方がいいじゃん」
月江「ふ~ん」
お母さん「うふふ」
お母さんは嬉しそうに笑うとコーヒーを一口飲んだ。私は苦くて飲めないけど、お母さんがいつも飲むコーヒーの香りは凄く好きだった。いつか私が飲めるようになったら一緒に砂糖の入ってないコーヒーを飲むんだ。
月江「それじゃあ作戦会議しようよ」
美玖「なにそれ」
月江「コンクールの作戦会議。目指せ優秀賞!」
お母さん「優秀賞?」
美玖「各学年で1位を取った人に図書券5,000円分が貰えるの……」
私は頬杖をつき、興味なさげに応えた。そもそも皆の前で発表するのも嫌なのに優秀賞なんて無理に決まっている。取れたとしても余計目立ってバカにされるに決まってる。栞の顔が頭に浮かび、また胸がむかむかしてきた。
月江「優秀賞取ったら美玖ちゃんが好きな本がたくさん買えるよ」
お母さん「取れるといいわね」
美玖「無理だよ。自信ないし……」
お母さん「美玖は文章が上手なんだから頑張ってみなさい」
月江「美玖ちゃんのお母さんも見に来るでしょ?」
お母さん「もちろん。美玖の晴れ姿楽しみ~」
美玖「……恥ずかしいから、来なくていいよ」
月江「美玖ちゃんのお母さんに賞状貰うところ見てもらおう~」
美玖「はぁ~だから無理だって……」
発表するのは私なのに……。2人ともすっかり優秀賞を取るのが当然のような顔をしている。でも、もしかしたら0.000001%の確率で上手に発表出来て、優秀賞を取れたら……きっとお母さんも月江も喜んでくれるはず。
月江「じゃあ美玖ちゃんを優勝させる会議しよ。まずは笑顔の練習」
美玖「なにそれ、発表関係ないじゃん……」
月江「関係あるよー笑顔で楽しそうに元気よく読めばいいんだよ」
美玖「もう月江が代わりに出てよ……」
月江「だって私選ばれてないもん。私は笑顔で元気よく読んだよ」
お母さん「そうね~お母さんも笑顔は大事だと思うなぁ」
美玖「お母さんまで……」
月江「ね?ね?やっぱり笑顔は大事なんだよ」
【続】