
美玖「…………」
美玖「バカみたい……」
その日の夜。机に座り、手鏡に笑顔を浮かべる。歯を出してみたり、口角を上げてみたり、色々と笑顔の練習をしていたけど、上手く出来ずいつもの仏頂面になる。猫背で、目は淀んでいて、口はへの字、むっとした感じで見るからに暗そう。自分の顔は見ているだけで疲れる。全然可愛くない。眼鏡をくいっとあげて、私はベッドでうずくまる。
いつの間にこんなに暗くて元気がない人間になってしまったんだろう。何をする元気もなくて、いつも怯えてビクビクしている。仲間外れになるのが怖くて、グループに入らないことにした。友達がいなければケンカも起きないし、仲間同士の付き合いもいらない。一人でいい。
お母さんは「友達を作れ」「勉強をしろ」「クラブ活動をやれ」みたいなことを押し付けてこなかった。いつでも私の味方で、私の考えを尊重してくれた。でも、お母さんのことを考えると友達がいた方が良いんだなあって思う。月江がいる時のお母さんは心の底から安心して、とても幸せそうな顔をしていた。その笑顔を見るたびに私の心はモヤモヤし始める。
日曜日の朝。2階からお母さんを呼ぶけど返事がない。パジャマ姿で下に降り、テレビをつけるとパープルティーンの3期をやっていた。キャラクターの絵が変わっていたけど、キャラも声優も展開も全然変わっていなかった。私の仏頂面がより険しくなる。
美玖「…………」
消すのもしゃくに障るので、そのまま見ることにした。テーブルの上に「お医者さんへ行ってきます」と書置きがあった。台所にある朝食のラップを剥がし、レンジに入れる。ココアを飲みながらアテレビを眺める。
アニメは後半で、ナジャ様が巨大なブラックホールを頭上に出し、パープルティーンと仲間たちが吸い込まれそうになっていた。紫の瞳を光らせて笑みを浮かべるナジャ様は確かに私に少し似ている。自分のおでこをそっと触る。自分にも技が使えたら栞や嫌いな学校を全部吸いこんでしまうのに……。そんな妄想をレンジのチン!と言う音がかき消す。私は一人で朝食を済ませると、そわそわと玄関の近くをウロウロした。
美玖「………あ」
玄関の扉に小さな影が映り、月江が私を呼んでいる。私はわざと時間をかけてから、嬉しい表情を必死に無表情に抑えて扉を開いた。
月江「おはよう。9時ぴったりに来たよ!」
美玖「……そう、約束って今日だっけ?忘れてた」
月江「忘れてた割には準備万端って感じだね」
美玖「そんなことない」
月江「なんか機嫌もよさそう!」
美玖「気のせいでしょ」
私は嘘が苦手らしい。
【続】