もう少し頑張りましょう #37

月江はいつもと変わらない格好をしていた。一見どこにでもいる普通の小学生だけど、よく見ると洋服は汚れて破れて、私やクラスの女の子たちと比べるとやっぱり着ている服はダサい。本人もそう言っていたけど、凹んだ様子もガッカリした顔もせず、いつものようにケロッとしていた。お母さんが私のお下がりをあげると言った時も「気に入ってるから大丈夫」と断っていた。私は内心ほっとした。私が着ていた服を月江が着れば、また栞たちに「貧乏だから」だとからかわれると思ったからだ。

月江「今日はピクニックもしようと思ってシートとお弁当も持ってきたんだよ」
美玖「そうなの?私何も持って来てないよ。言ってくれればお母さんに作ってもらったのに」
月江「美玖ちゃんの分もあるから大丈夫だよ」
美玖「……ありがと」

月江は歯を出してニッと笑った。綺麗な歯並びの歯が光る。月江は見た目こそ服が古かったり、少しボロボロだったりしたけど、顔はとても可愛いと思った。本人には言わないけど、目はパッチリしていて瞳は綺麗、唇も赤くて可愛かった。月江は私の方を見て、今日がどれだけ楽しみだったかを話した。

月江「今日は晴れて良かったね~」
美玖「うん、外に出るまで気が付かなかった」
月江「あの雲ドーナツみたい。真ん中に穴が開いてる」
美玖「本当だ……」
月江「……美玖ちゃん?」
美玖「……え?あ、なんでもない……」

空の青さと広さに一瞬驚いた。こんなに空って綺麗だったっけ?

なんだか目の前の世界が一変したように感じた。今まで、月江と出会うまでの私はずっと足元を見ていた。頭を上げるのが怖くて、何かを見るのが怖くて、自分の不器用な足元だけが崩れないかを確認しながら歩いていた。でも、少し前を少し上を見るだけで、ずっと大きくて想像もつかない世界がどこまでも広がっていることがわかった。

図書館に着き、私達は手分けして本を探すことにした。テーマは不思議の国のアリス。色々考えて自分が一番好きな話にしようと決めた。でも、ただ本の感想を書くのだけじゃ面白くないと思った私達は、不思議の国のアリスをテーマにして研究することにした。物語の秘密や意味を紹介しながら感想を発表したら面白いと思ったからだ。早速私達は検索の機械を使って不思議の国のアリスに関する本を手当たり次第に集めていった。友達と一緒に何かをするというだけで私はドキドキして、少し楽しかった。

【続】