
お腹がいっぱいになったけど、なぜか集中力が増して全然眠くなかった。月江も同じで今まで見たことのないくらい集中していた。私達はお互いに無駄な会話を一切せずに黙々と作業を行っていた。15時まであっという間だった。一気に作業をし、ひと段落して隣りを向くとたまたま目が合い、思わず吹き出してしまう。月江からノートを受け取る。あとは家に帰って私が文章をまとめる。
月江「じゃあ、また学校でね」
美玖「月江、その……今日は付き合ってくれてありがとう……」
月江「こちらこそ。とっても楽しかった」
お母さん「お帰り。あ、月江ちゃん」
月江「おばさん、こんにちは」
お母さん「うふふ、ちょうどよかった。ちょっと待っててね」
お母さんは嬉しそうに笑うと開けた扉を再び閉めて家の中に戻って行った。私達は顔を見合わせて不思議な顔をする。扉が開き、お母さんが抱っこしている生き物に私達は目を丸くした。
月江「わぁ~可愛い。ワンちゃんだ」
美玖「この子、どうしたの……」
お母さん「この子は保健所で処分されるところだったのよ」
美玖「可哀想……」
月江「でも、美玖ちゃんのお母さんが助けてくれたんだ。良かったね~ワンちゃん」
お母さん「近所の貼り紙を見て引き取ってきたの」
ワンちゃんがお母さんの顔をペロペロと舐めて鼻をクンクンと鳴らす。私も月江も目が釘づけで、次の言葉が出てこない。ワンちゃんは私達の方をじっと見つめる。月江は抱きしめてたくてウズウズしているようで、両手をブルブルさせていた。
お母さん「コーギーっていう種類の犬なのよ。美玖、月江ちゃん、可愛がってあげようね」
美玖「うちで飼えるの?本当に?」
お母さん「そうよ。これからは家族の一員ね」
月江「すごーい!!ねえ、おばさん抱っこしてもいい??」
お母さん「いいわよ。優しく抱っこしてね。まだ慣れてないから少し怖がってるかも」
月江「うわあ~フワフワしてるぅ~大きい~美玖ちゃんも抱っこしてごらんよ」
美玖「う……うん、噛みつかないかな……」
お母さん「大人しい子だから大丈夫よ」
私は恐る恐る手を伸ばして頭を撫でてみる。コーギーは、口を開けてハアハアさせている。まるで笑っているように見える。真っ黒な瞳がつぶらで、短い足も凄く可愛い。月江からコーギーを受け取り、ギュッと抱きしめる。確かにフワフワしてあったかい。
月江「名前はあるの?」
お母さん「まだつけてないの。二人につけてもらおうと思って」
美玖「男の子?」
お母さん「女の子よ」
月江「美玖ちゃんが好きな名前をつけたら?」
美玖「アリスちゃんにする……」
お母さん「やっぱり」
月江「私も~絶対アリスだと思ったぁ~」
私は何も言えず、そのままアリスのお腹に顔を埋めた。
【続】