
月江「何か嫌なことでもあった?」
美玖「え?」
いつものように図書室で月江と並んで座り、ノートを開くと同時に月江が言う。あまりにも唐突に心を読まれ、私は何も言えずに月江の顔を見つめた。月江は責めるわけでも同情するわけでもなく、無表情のまま私の返事を待っていた。私は「何もないよ」と言いたかったけど、月江に隠し事を仕手も仕方がないと思い、話すことにした。月江は相づちも打たず、真っすぐな目で喋る私を見つめた。
月江「そっかぁ~、あの栞って子はしつこいね」
美玖「仕方ないよ。クラスで人気者なんだもん、お姫様だし……」
月江「人気者?嘘~あんなに嫌な子なのに~?」
美玖「クラスの男子はみんな栞が好きだし、他の女子は怖がって近づかないし」
月江「そうなんだ。でも、それって人気者なのかな?」
美玖「え、うん、まぁ……でも、私のことは凄く嫌ってるみたい」
月江「どっちかと言えば好きすぎていじめてるみたいだけどなぁ」
美玖「栞が私を好きなわけないじゃん。ありえないよ」
月江「ほっといてくれればいいのにねー」
美玖「うん、どっか行って欲しい……」
月江「明日、美玖ちゃんの発表聞いたら栞ちゃんもきっとビックリするよ!」
美玖「あんまり目立ちたくないなぁ」
栞が頭をよぎるたびに私は不安になる。気分が悪くなり、なんだか暗い気持ちになって来る。月江が心の支えになってくれてるから耐えられるけど、本当は学校にも行きたくない。この図書室のこの空間だけが、私にとっての全てだった。ずっとこの場所だけにいられたらいいのに。
美玖「な!何?」
月江「私は美玖ちゃんの味方だよ」
美玖「急に……何それ……」
暗い気持ちになってきた瞬間、月江が私の両手をギュッと握りしめた。真っすぐな目で私を見つめる。眼帯の向こう側もきっと同じ目をしているんだろう。大きく見開いた瞳は真実の瞳だ。月江の言葉に涙が出そうになる。ずっと一人ぼっちだった私にできた唯一の友達。手もボロボロで唇の横も切れてて、持ってるランドセルや服も汚されてて、私よりも酷い目に遭わされてるのに、私のことを守ってくれる。
美玖「私の味方なんて……当たり前じゃん……私達親友でしょ」
月江「うん!親友だよ!」
美玖「……」
月江「さ、気分を入れ替えて明日の発表に向けて頑張ろう」
美玖「そうだね!頑張らなきゃ!」
月江「そうそう笑顔を忘れないで、声も大きくね!!」
図書室の先生「そこ!静かにしなさい!」
私達は顔を見合わせてほくそ笑んだ。
【続】