もう少し頑張りましょう #45

先生「はい、では五年生はこっちに集まって」

自分の名前のテープが貼ってあるパイプ椅子に座り、手提げからノートを取り出そうとした瞬間、先生に呼ばれる。五年生の代表が席から立ち上がり、発表についての説明を受ける。ステージの中心に校長先生が話をする台のようなものがあり、体育館には全校生徒が座るパイプ椅子がたくさん並べられていた。1~3年生はすでに着席していてガヤガヤと賑やかにおしゃべりをしている。4年生は体育館の入り口周辺でパイプ椅子が並び終わるのを待っている。

私は小さくため息をついた。大丈夫大丈夫。先生の説明が終わり、ステージの袖に戻る時、パイプ椅子を並べている月江と目が合った。月江は両手で小さくガッツポーズをして、いつものようにニッコリと笑った。私は月江のしてくれたリラックス~♪のマッサージを思い出して少し緊張がほぐれた気がした。

私がパイプ椅子に座ると同時に四年一組の生徒の発表が始まった。四年生が終わると次は五年生。私は二組なので六番目だ。一人三分の発表なので十五分後には私の番が回って来る。チラリと隣りに視線を移すと三組の男子がノートを見直している。私も手提げのノートを……。

美玖「ない……」

ガサガサと乱暴に手提げの中を荒らしてみる。心臓がバクバクと鳴り、呼吸が苦しくなる。先生が「発表中だ。静かにしなさい」と注意をするが、私はそれどころじゃなかった。手提げをひっくり返し、中からボールペンとお母さんのお守り、筆記用具が転がる。近くの子達の視線が集まる。男の先生が様子のおかしい私を心配し、近づいてくる。

男性教師「どうした?」
美玖「の、ノートが……なくなく…なくなっちゃって」

きっと私は今泣いている。目も真っ赤で鼻も垂らしてる。ノートが今ここで見つかったとしても、前に出て発表なんかできない。栞や和也や愛や誠は、私の姿を事細かく見て、何かおかしなところはないか見張っている。少しでも変な動きや間違った事を言えば散々にバカにする。毎日笑い者にする。今までだってそうだ。

男性教師「そうか。まだ少し時間があるから教室を探してきなさい」
美玖「はい」

返事をするより早く私は席を立った。眼鏡は涙が付いて、指紋が付いて、発表だからって何度も拭いて、お母さんがくれたお守りだって持って来てたのに!月江だって応援してくれたのに!いつもそうだ。何で私はいつも……。

月江「美玖ちゃん!!」
美玖「つ……月江」

【続】