
月江は私の両肩をギュッと押さえて、目をじっと見つめる。
月江「どうしたの?何かあった?」
美玖「つ……月江……どうしよう、私、ノートがノート探さなきゃ」
私は呼吸が定まらなくて、はあはあと息を切らせていた。頭の中がパニックになっていて、上手く説明が出来ない。
月江「私が探してくるから美玖ちゃんは戻って」
美玖「でも、私ノートがないとしゃべれない」
月江「美玖ちゃんが一緒に動いてたら発表に間に合わなくなっちゃうよ。私が教室を見てくるから」
美玖「…………」
返事が思い浮かばず、何も言えずにいると月江はバッと振り返り、体育館の裏口から外へ飛び出していった。私は何も言えず何も出来ず、涙を拭ってパイプ椅子に戻って行く。手提げをもう一度見て見るがノートはない。私は手提げの上で両手を握りしめる。教室を出る前には確かにノートが手元にあった。トイレは給食の前に行った。教室からここまでどこも寄っていない。
美玖「…………」
お母さんのお守りを両手で握りしめ、目をつぶる。四年生の発表が終わり、五年生の発表が始まった。心臓の音がどんどん大きくなる。手が震える。今すぐここから逃げ出したい。こんなのやりたくなかった。引き受けなければ良かったんだ。ナジャ様なんて悪口を言われる子は、人前で発表をやる資格なんてないんだ。もう無理だ。帰りたい。
司会の生徒「五年二組、長谷川美玖さん」
冷や汗が出る。身体が動かない。まるで全身が石のように固まって、呼吸も苦しくなってきた。自分の名前が呼ばれている。何もなければ直ぐに返事をして、もうマイクの前に立っているのに、私はまだパイプ椅子に座っている。
体育館がざわついている。お母さんは心配な顔をしているだろう。栞たちはニヤニヤしながら笑い合ってるはずだ。先生が私の名前を呼びながら私を探している。周りにいるクラスの代表の視線が私に集まる。私はすっと立ち上がり、マイクに向かって歩き出す。袖から出て、体育館を見渡す。たくさんの人の視線が私に集まる。最初に目に留まったのは、私を見てニヤニヤと笑う栞と和也、愛。それから後ろの方で不安そうな顔をしながら、小さく手を振るお母さん。
最悪、本当に最悪な光景だった。栞が望んだ世界が広がっていた。男子からちやほやされて、女子からは羨ましがられて、欲しいものは全部手に入れて、先生からも褒められて、弱い者いじめをしても許される。栞は正義で私は醜い悪。正義のヒロインにナジャ様は勝てないんだ。マイクの前に立った私は何も言えず、晒し物のように立ち尽くした。
【続】