もう少し頑張りましょう #47

ナジャ様「世話が焼けるわね」
美玖「!?」

ガタンと機械が落ちたような音が聞こえた。照明が消え、カーテンを閉め切っていた体育館が真っ暗になる。一瞬どよめきが起き、下級生が騒ぎ始める。私があっけにとられていると、司会の生徒が「静かにしてください」「落ち着いてください」と言う。マイクがぶつりと消え、騒ぐ生徒たちを先生たちが注意する。何が起きているか分からずにいると耳元で声がする。

美玖「な、ナジャ……」
月江「お待たせ。リラックスしてね」

月江は、汚れたノートをそっと手渡し、私の両肩を優しく二度パンパンと叩くとステージから袖へ消えていった。袖に月江がはけると同時にまるで舞台の演出のようにパッと体育館の照明がつく。ざわめきは収まり、ノートを手にした私を見て栞たちが面白くなさそうな表情を浮かべた。私は小さく息を吐き、ノートをめくって読み始めた。なるべくノートに視線は向けず、正面にいるお母さんを見つめ、お母さんにだけ伝える気持ちで読んだ。声も出ていたと思う。笑顔も出来ていたと思う。読み終え、頭を下げると拍手が鳴り響く。

発表が無事に終わった。優秀賞は取れなかったけど私はとても満足できた。気持ちが高揚していた。クラスでは先生が「長谷川さん、お疲れ様でした」と言うだけで、クラスの子からは何も言われなかった。栞たちも特に何かを言うわけでもなく、知らないふりをしていた。私は何か言われるんじゃないかとひやひやしていたが、何事もなくホッとした。

美玖「月江、本当にありがとう」
月江「いいのいいの」

月江から話を聞いた。月江が裏口から飛び出し、私の教室に行くと誠が怪しい動きをしていたらしい。私の机の前でガサガサと何かをしていた。月江が問い詰めると誠はニヤニヤしながら「なんでもない」と逃げようとしたらしい。誠を捕まえるとボロボロになった私のノートを手に持っていたと言う。

美玖「大丈夫?乱暴されなかった?」
月江「うん。私が突飛ばしたからね」

月江に突飛ばされると、誠は机に頭をぶつけ、「栞たちに命令された」と白状したらしい。そんな事だろうと思っていた私は特に何も思わなかったけど、月江はとても怒っていた。その後は、時間がないのでノートを片手に慌てて体育館に走ったと言う。体育館で私が棒立ちになっているのを見かけ、咄嗟に近くにあった照明のレバーを下ろした……ということだった。

月江「嫌な予感はしてたんだよね。朝見かけた時に栞って子が妙にニコニコしてたから」
美玖「そうなんだ……私は……」

【続】