もう少し頑張りましょう #48

月江「わかってるよ。頭いっぱいだったんでしょ?」
美玖「うん……」

月江には何でもお見通しだった。まるで私の心が読めるみたいだ。ノートは足跡が付けられ、落書きをされて、牛乳の臭いがした。ところどころ読めないようにグチャグチャにボールペンで書かれていたけど文脈や単語、あとは練習で覚えていたから何とか発表が出来た。

美玖「全部月江のおかげだよ」
月江「違うよ。私は何もしてない。美玖ちゃんが頑張ったからだよ」
美玖「ありがとう。家寄って行くでしょ?」
月江「うん。美玖ちゃんのお母さんも来てたね」
美玖「あーうん。何か最初の方恥ずかしかったなぁ」
月江「気にすることないよ。あれは意地悪な子たちが悪いよ」

月江はむっとした顔をした。眉が八の字になり、頬をぷくーっとフグみたいに膨らましている。今までは一人ぼっちだった。友達と言っていた子たちが裏切って、離れて行った。私は自分に自信がなくなり、内気で暗い女の子になった。ナジャ様に似てるとからかわれ、クラスでも孤立していた。図書室だけが学校で唯一の居場所で、誰からも責められなかったけど、やっぱり一人だった。視力が悪くなって眼鏡をかけた。なんか恥ずかしかった。どんどん内向的な性格になり、友達なんていらないと感じ始めた時に、月江が私の前に現れた。月江は私の光だった。太陽だった。

家に帰るとお母さんがお店の前でしゃがみ込み、低学年の女の子と楽しそうにしゃべっている。一生懸命にしゃべる女の子にうんうんと相づちを打っている。その姿を眺めていると、低学年の女の子が数年前の自分のように見えた。お母さんが私のことを沢山褒めてくれた。嬉しかったけど、月江が隣りにいたので心から喜べなかった。何でもないふりをして、私は月江とアリスの散歩をすることにした。

月江「そういえば美玖ちゃんってナジャ様に似てるって言われてるよね」
美玖「うん。おでこ出してるし、似てるって言えば似てるから……」
月江「でも、ナジャ様って可愛いくない?」
美玖「そう?私はいつも悪口で言われてるけど」
月江「う~ん、悪の女王様って感じだけど、寂し気と言うか敵って感じしないよね。凄く美人だし。いっそのこと美玖ちゃんもナジャ様になったら?」
美玖「はあ~意味わかんない」

ニコニコといつもの調子で笑う月江に呆れた私はわざとらしくため息をついた。でも、私も薄々感じてはいた。ナジャ様も孤独なんじゃないか、ナジャ様も仲間が欲しいんじゃないかって。

【続】