もう少し頑張りましょう #49

月江「それにしてもアリスはいい子だよね~」

月江が呼んだアリスと言う言葉に反応し、アリスが私達に振り向く。たまにアリスは人間の言葉が分かるんじゃないかと思うような時がある。私が親バカ(犬バカ?)なのかもしれないけど。私が落ち込んでいる時は、わざと足元にすり寄って慰めてくれるような仕草をしたり、部屋で月江とアリスの話をしていると頭で扉を押して部屋にやってきたり、普通の犬とは違う気がする。

月江がしゃがみ込み、アリスの首元をわしゃわしゃと撫でまわす。アリスはフンフンと鼻を鳴らしながら気持ちよさそうにしている。今度はお返しとばかりにアリスが月江に飛びつき、顔をペロペロと舐め始めた。あまりに勢いよく飛びついたために月江は尻餅をつく。月江もアリスも気にせずナデナデ、ペロペロしている。私は腰に手をやり、仕方ないなぁといった感じでその様子を眺める。

月江「あははは、アリスがぺロペロ止めないよ~」
美玖「本当に月江が好きなんだね」
月江「嬉しいなぁ~私たち友達だよね~アリス」

月江の言葉に返事をするようにアリスがワンワンと吠えた。空がオレンジ色に染まる。

月江「じゃあここで」
美玖「また明日」
月江「うん、バイバーイ」

月江はアリスの頭を撫で、商店街の角で別れた。毎週金曜日は眼科の日らしい。月江は目が悪く、眼帯をしている目はほとんど見えないと言う。黒目が白くなっていて変だからあまり見られたくないと月江は言った。私は月江が困った顔を見たくない。なので月江の眼帯や目の話は極力触れないことにした。

以前クラスで無理矢理眼帯を取られ、「気持ち悪い」「オバケだ」とバカにされた時はさすがに辛かったらしい。ただ、私と違うのは悪口を言った相手を思いきり突飛ばしたというところだ。私だったらいつものように黙りこくって涙を浮かべ、何も出来ずにいるだろう。勇気のある月江の話を聞いていると私は尊敬するとともに自分が惨めで情けない存在に思える。月江の前では偉そうなことを言いつつも自分よりも強い相手にはビビってしまう。焦って動揺して、さらに笑い者になる。私は笑われるのが辛い。自分を評価されるのが嫌。でも本当に嫌なのは臆病で弱虫な自分自身だった。

美玖「どうしたの?」

アリスがじっと私の顔を見上げている。どうしたの?と聞いた私だったが、それはアリスのセリフだったかもしれない。アリスは私の足に身体を擦りつけ、ハアハアと声を上げた。私はアリスの頭を優しく撫でてから家に向かって歩き出した。

【続】