
その日の3時間目は自習だった。先生は諸事情で教室にいない。それをいいことに男子も女子もおしゃべりをして、教室を歩き回って遊んでいた。クラスに友達がいない人間にとって自習の長い時間は苦痛だ。図書館には行けず、ただただ時間が過ぎるのを待つしかない。私は教科書とノートを開き、特に何をするわけでもなくボーっとしていた。
美玖「!」
カメラのシャッター音が聞こえ、私は身体を強張らせる。
栞「陰キャ写真ゲット~♪」
和也「あはははは~すげぇ~クラスの代表陰キャじゃん」
栞と和也がわざとらしく大きな声で笑う。私は教科書に視線を落としたまま黙る。みんなが私を見ているのが分かる。
愛「これって最新のスマホじゃない?先月発売されたヤツ」
栞「そう。パパが心配だからって持たせてくたの」
和也「栞の家は金持ちでいいよなー俺も早く新しいスマホ欲しいぜ」
愛「私も~2年前のスマホなんて画質悪いし、速度も遅いから最悪~」
栞「そ・れ・で・も~持ってないよりはいいでしょ~?」
愛「ふふ、そうだね~お金がなくて買ってもらえない人もいるもんねー?」
美玖「…………」
クラスの3分の1はスマホを持っている。友達がいない私からすればスマホは全然必要なかった。もし持っていれば栞たちに無理矢理登録されて学校以外でも監視されて悪口を言われるに違いなかった。
栞「美玖~スマホのアドレス教えてよ~」
美玖「私は……」
栞「あ、ごめんね~美玖は貧乏だからスマホ持ってないんだっけ?」
美玖「…………」
栞「ほら写真撮ってあげるから、こっち向いてよ」
愛「メッチャズームしよーよ」
美玖「止めてよ……」
全然声が出ない。怖い。私が顔を伏せようとすると和也が来て無理矢理私の顔を上げようとする。男子に触られるのが怖くて、身体が震える。栞と愛がニヤニヤ笑いながらスマホを向けて近づいてくる。
教師「うるさいぞ~座れ~」
先生が教室に戻り、栞たちがつまらなそうな顔をして席に戻って行く。私はホッと肩を撫でおろす。この間のコンクール以降、先生たちの中で私の評価が上がったらしく、ことある毎に褒められた。それが栞には面白くなかったらしく、私への態度がどんどん露骨になってきた。机を蹴ったり、肩を揺すったり、陰口や悪口も酷くなった。今までは気にしないように過ごしていたけど、内容が悪質になるにつれて私は自分の気持ちが不安定になっていくのを感じ始めた。
【続】