
いつものように図書館へ行くと月江はいなかった。珍しいと思いながらも私はいつもの席に座り、適当に手に取った本を読んでいた。16時半になっても閉館の時間になっても月江は現れなかった。ほとんど毎日一緒に過ごしていただけに、私は動揺していた。特にここ最近は気持ちが不安定で、なんとなくイライラしたり、何の理由もなく唐突にマイナス思考になって、急に落ち込んだりしていた。
一人で家に帰る。月江がいないだけで、別世界のように感じられる。月江は猫がいるとか、変わった花が咲いているとか何かを見つける度に私に伝え、ジョギングしているお兄さんに手を挙げてハイタッチをしたり、同じ時間にバス停で待っているおばあさんとお話をしたり、毎日帰り道を満喫していた。人見知りな私は、誰とでも打ち解けられ、いつでも自然体でいられる月江をいつも羨ましく思っていた。
美玖「ただいまー」
お母さん「お帰り」
美玖「誰か来てたの?」
お母さんがお皿を洗っていたので声をかける。シンクの横には、大きなお盆とティーカップやお皿が置いてあった。普段、お客さんが来ることがないので珍しいと思った。
お母さん「美玖のお友達。もう少し早く帰ってきたら会えたのにね」
美玖「月江が来てたの?」
お母さん「ううん。栞ちゃん?愛ちゃん?あとは男の子もいたわね」
美玖「!!」
お母さん「美玖?」
私は自分の部屋に走る。心臓がドキドキと鳴り、激しい吐き気を感じる。最悪だ。最悪。飛び込んだ部屋は汚された様子もなく、一見変わった雰囲気はなかった。私は血相を変えたまま、机の引き出しや押し入れを乱暴に開ける。この空間にあいつ等がいたと言うだけで気持ちが悪くなる。油断していた。自分がバカだった。目に涙を浮かべながら持ち物を確認する。お気に入りのペンが折られ、下着が減っていた。ノートや教科書が破られている。
美玖「…………」
私は絶望した。部屋の隅でうずくまって震えているアリスを発見した。私は崩れるようにアリスに飛びついた。もう何も言わなくても全てわかっていた。怯えた背中、濁った瞳……。私は涙をこぼし、何度も「ごめんね」とつぶやきながらアリスをなでた。アリスは鳴かず、尻尾も振らず、私に触れられても黙っていた。お母さんが1階で私を呼んでいる。お母さんも悪くない、アリスも悪くない。私が悪い。栞が悪い、あいつらが憎い。
【続】