
その時、自分が何を言ったのか覚えていない。覚えているのは、先生が私の両腕を押さえて、栞から話そうとしたところからだった。それでも私は栞を罵倒し、右手を押さえ、髪をグシャグシャにして私を睨みつける栞を蹴っ飛ばしてやろうと足をバタつかせていた。クラスは騒然となり、栞の取り巻きも無言で立っていた。
休み時間、トイレに立とうとした私を和也が無理矢理イスに座らせる。避けて立ち上ろうとするが、今度は力を入れて両肩を押さえつけられる。指を思いきり立ててきたので、私は「痛い」と小さく呟いた。立ち上がるのを諦めた私の目の前に栞が来て、ニヤニヤしながらスマホを見せつけてきた。どうせまた私の盗撮写真に落書きをした画像かエッチな動画か画像だと思った。
しかし、そこに映っていたのはゲラゲラ笑う栞たちとその目の前で怯えるアリスの姿だった。アリスは初めて見る栞たちにしっぽを振って近づいていく。栞が「お手」と言い、出された手にアリスが手を乗せる。次の瞬間、栞がアリスの頭を叩いた。和也と愛の笑い声が聞こえる。私は怒りで身体が震えるのを感じた。再び、栞が「お手」と言って、アリスに手を出す。アリスは混乱した様子で震えながら『待て』の状態をしていた。すると栞が「お手なんだから手を乗せるんだよ。バカ」と言ってまた頭を叩いた。
和也「お前の犬は本当にビビりだよな。一回のお手で怒られたからって、お手忘れてやんの」
愛「和也がアリスちゃんの足踏んずけちゃったから、歩き方おかしくなっちゃったんだよね」
和也「トイレ行きてえのに邪魔なんだよ」
栞「しかも、和也がわざとオシッコ飛び散らせて、トイレ汚しちゃったんだって~」
和也「美玖、ごめんなー。お前の家、貧乏だから掃除道具買えないんだろ?悪いことしちゃったな」
栞「許してくれるよねー、私達お友達だもんね」
愛「でも、出てくるお菓子がショボすぎ。今度はケーキお願いね」
和也「貧乏だから無理だろ」
栞「またアリスで遊びたいなぁ~今度はちゃんとお手が出来るように躾けと……」
栞が言い終える前、すでに私は机に合ったペンで栞の右手を刺していた。栞は「痛っ」と小さく声を出す。横にいる愛は目を大きく見開いてから後ずさりし、後ろにいる和也は口を開けたまま動かなくなっていた。私は栞の整った髪を思いきり根元から引っ張り、顔を叩こうとした瞬間……先生に止められたのだった。先生が生徒を座らせ、私と栞はそれぞれ別室に連れていかれた。
【続】