もう少し頑張りましょう #55

 手紙は確かに月江からだった。月江は自分の名前を書く時、さんずいの一番下を長く書く。その癖が手紙に残っていた。だけど、本文の筆跡は月江の字じゃなかった。書道のように達筆で、違う人が書いているのは明白だった。内容は、突然姿を消したことに対する謝罪、病気で入院をしているという話だった。私は自分が嫌われたと思っていたので、純粋に嬉しかった。手紙の最後に『大好きな親友 美玖』と書いてあった。普通は手紙の最初に相手の名前を書くのに……。私は泣きながら笑った。

 私は月江に手紙で返事を書くことにした。入院している月江にぶっきらぼうな態度は悪いかなとか、わざとらしく元気な感じも変かなと何回も書き直した。本当なら私も月江も中学1年生。だけど二人とも中学校に行ってない。制服はクローゼットにしまったまま。私はサボりの仲間が出来たようで少し楽しくなってきた。やっと書き終えた手紙をお母さんに出してきてもらう。

 三日後、待ちに待った月江からの返事が来た。まるでアイドルか芸能人からの返事が来たかのようにドキドキした。その後も手紙のやり取りを何度かしたけど、お互い特に話をするほど毎日に変化はなかった。

 私は面白い本があるから月江に読んで欲しいと手紙を出した。でも、本当は月江に会いたかっただけ。手紙からも月江が元気そうなのは伝わって来るけど、私はどうしても会いたかった。一週間経っても返事がなく、私は焦った。もしかして月江を怒らしたんじゃないかとか、月江を傷つけたんじゃないかと不安になった。その手紙の返事が届くのに二週間かかった。

 外に出ると雪がぱらついていた。最後に家を出たのはいつだろう。もう思い出せない。お母さんが買ってくれたコートを羽織り、傘をさしていく。お母さんと一緒に作ったケーキと月江が好きだったお菓子を沢山箱に入れて、私は月江の入院している病院へ向かった。病院へ近づくにつれて、私はなんだか緊張してきた。

 受付で待っていると、月江のおばあちゃんがやってきた。月江が大好きなおばあちゃんは、私が想像していた通りの優しいおばあさんだった。綺麗な白髪に赤い眼鏡、ニッコリと笑ったおばあさんは、深々とお辞儀をした。私もペコリと頭を下げて、お見舞いのケーキとお菓子の箱を手渡した。

美玖「これ、お見舞いのケーキです」

おばあさん「まあまあ、ありがとう」

美玖「月江は……」

おばあさん「元気よ。いっつも美玖ちゃんの話をしてるんだから」

美玖「……そうですか」

おばあさん「立ち話もなんだから行きましょうか」

美玖「荷物、私が持ちます」

おばあさん「ありがとう」

【続】