
翌日も私は月江の病室を訪れていた。おばあさんは週に二回しか来れないらしい。病室は他に三十代くらいの腰が悪そうな女の人、寝たきりでずっと背中を向けているおばあちゃんがいた。私は出来るだけ気を遣って小さな声で話をしていた。この日は羊毛で作ったフェルトマスコットを月江にプレゼントした。昨日、病院の帰りに雑貨屋さんに寄って材料を買い、お母さんと説明書を読みながら作った。小さな箱を赤いリボンでラッピングして、月江の両手にそっと乗せる。
月江「ありがとう。おばあちゃんにも見せたいから後で見てもいいかな?」
美玖「うん。箱に入ってるから二人の時に開けてみて」
月江「ふふふ、楽しみだなー」
美玖「今日は体調どう?」
月江「凄く元気。実は体調は全然悪くないの。ただ目がこんなだから外に出たりとかは難しいけど」
美玖「そっかぁ」
月江は寂しそうに俯いた。月江の声はいつも通りだし、性格も相変わらずだけど、とても辛そうだった。少しだけど目が見えると言っていたけど、治るんだろうか。手術とかお金とか将来とか、聞きたいことが沢山あるけど月江にとっては聞かれたくないことばかりだと思う。この狭い病室で月江は色んなことを一人で考えていたんだと思うと胸が苦しくなる。
月江「また美玖ちゃんとピクニックとか図書館とか行きたいなぁ」
美玖「外出許可とかは出来ないの?」
月江「お医者さんの許可が必要なんだけど、外は寒いし、凍ってたり雪が積もってると危ないから今の時期は無理かも」
美玖「そうなんだ」
月江「でも、こうして美玖ちゃんが来てくれるから私は平気」
美玖「うん……」
月江「春先くらいに退院出来たらいいのになー。そしたら美玖ちゃんと学校行けるのに」
美玖「月江は学校に行きたいの?」
月江「もちろん。美玖ちゃんと通って、テニスサークルに入るの」
美玖「月江ってテニスが好きなの?」
月江「昔、近所に住んでいたお姉さんが高校生の時にテニス部で、一度練習試合に連れて行ってもらったことがあったの」
美玖「へぇー」
月江「試合には負けちゃったんだけど、負けた後も勝った選手と笑顔で握手してて、カッコいいなぁ~って思ったの」
美玖「月江は運動好きそうだもんね。私は運動苦手だからなー」
月江「最初はみんなできないよ。勝ち負けは気にするな!練習すれば上手くなる!ってそのお姉さんは言ってたよ。だから美玖ちゃんも出来るはず。美玖ちゃんは入りたいサークルとかあるの?」
美玖「美術サークルとか……」
月江「美玖ちゃんは絵も文章も上手だもんね」
【続】